第24話 秋の味覚。

「まず鍋に水を入れ、沸騰させる間に、栗の鬼皮の部分とお尻の部分の境目、曲線が強い方でなく、平な方の濃い茶色の部分を下から上にと、切れ目を入れておく。

ナイフでも包丁でも切れ目が入ればいい。

そしてお湯の入った沸騰した鍋を火から上げて、切れ目を入れた栗を投入」


「「ふんふん」」


「切れ目からお湯が入っていい感じにふやけて皮が柔らかくなり、後は包丁やナイフで簡単に剥ける。渋皮も指で擦るだけで簡単に取れる。

これが指と手が痛くならない裏技ね」


「おお……」

「カナデっち、よく知ってるね、そんなん」

「私は栗料理が好きなんだけど、処理が面倒って親が言うからネットで裏技を調べた、電子レンジとかを使う裏技も有るけど、ここでは使えないから」


「栗ご飯が食べれるならサヤなんでもいい」

「ふふ、食べられるよー」

「じゃ、下拵え頑張ろうぜ」


「あ、作業BGMに音出していい? スマホに入ってるやつ」

「良いよ、でも眠くなりそうなクラシックとかはやめてくれよ」

「アニソンとゲーソンだから大丈夫」

「りょ」


「アップテンポの曲はノリノリになれていいな」



 私達は延々と栗の皮剥いてる。地味に、地道に。



「うん。親戚の漫画家さんの修羅場でもよくアニソン流してくれてたし、

あるいはアニメが流れてる」

「アニソン流れてるのはいいな。あ、神曲来た」


「サヤがスーパーでバイトした時はサカナの歌が流れてたよ」

「紗耶香ちゃん、もっと華やかなバイト出来そうなのに」

「えー? 何それ」

 紗耶香ちゃんはクスクスと笑う。


「雑誌のモデル? 読モとか」


 紗耶香ちゃんは可愛いくて華が有るから、読者モデルとか出来そう。


「その発想は無かったわ。近さで選んでた」

「あ、近いのは確かに大事だね。交通費かかるとしんどいし、移動時間かかると怠いし」


 私達はわりとどうでもいい事を喋りながら、栗剥き作業を終わらせた。



「あ、俺、栗ご飯だけじゃもったいないから、茶碗蒸し作るわ」

「嬉しい! 私、茶碗蒸し好き!」

「マ!? 茶碗蒸しも付くとかパない」


「食器棚に蓋付きの器があったからさ」



 *



「完成! 栗ご飯! お上がりよ!」


 私は完成した栗ご飯とコウタが作った茶碗蒸しをテーブルに並べ、決め台詞と共に、料理を進めた。



「いただきます!」

「どっかで聞いたセリフだが、まあ、いいか、いただきます!」


「秋の味覚美味しいな」


「うん、栗ご飯も茶碗蒸しも美味しい!」

「どれも美味しいし、茶碗蒸し作れるとか、コータ君凄いね」


 この美味しい茶碗蒸しはコウタが作ってくれたので、紗耶香ちゃんも驚いている。


「うち親が急に蒸発しちまって、親戚の家に居候だったから、せめて家事でもしないと肩身狭かったからさ、多少の料理スキルは元からあるんだ」


「え!? そうだったん!? 大変だったね!」


 突然重い話をぶっちゃけたコウタ。

 紗耶香ちゃんには初耳情報だったので、さぞ驚いただろう。


 私はある日、小学生のコウタが、隣の家に越して来た頃からの付き合いだ。

 コウタの幼馴染だから、家庭の事情も料理できるのも多少知ってる。


「奏の家がお隣で、おばさんがよくおかず分けてくれたりもしたし、料理も教えてくれた」


「つまり、うちの母の味がコウタに伝承されてる訳よ、あはは」

「へえ、すごいじゃん」


「うちのお母さんの料理って言えば、餃子が美味しくてさ〜〜、コウタには今度、餃子を作って欲しい」

「お前も包むんならいいよ。スキルで味の◯買ってくれな」


「了解!」

「あ! サヤも包むくらいなら多分できるよ!」

「分かった。今度の休みには皆でせっせと餃子を包もう」


 うん! 餃子パーティーも楽しそうだよね!


 それにしても、コウタの所は親が蒸発して、息子も行方不明になって、私もだけど……やばいな。


 蒸発した両親ってもしやコウタを捨てたんじゃなくて、まさか、異世界転移だったりするんだろうか?

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