第22話 本日は服と化粧品の店。

「いらっしゃいませ〜〜!」


「どうぞ、スカートは合わせてみてください。

そのお色、お客様によくお似合いです」


 今日のよろず屋は服と化粧品販売の日。


 紗耶香ちゃんと私は接客中。

 前日に説明しておいた効果か、ちゃんと女性客が来てくれてる。


 コウタは食材の買い出しに、賑やかな市場内のどこかにいる。

 行き交う人々が多くてどこにいるかは分からない。


「多少体型が変化しても、このピンで留めればいいので〜、

あ、このピンはショールなどを留めるのにも使えるんでお得!」


「この紅、とても綺麗ね。入れ物の貝殻も可愛い」

「おすすめ商品です。数が少ないので早い物勝ちです」


 数が少ないと煽りたくはないけど、事実なんだな、コレが。


「買うわ」

「あざまし!」「ありがとうございます」


 日焼け止めもあるか分からない世界だ、顔にシミを作ってる平民女性は多い。

 シミ爆弾はある日突然、出て来るのだ。


「この化粧水で顔のシミが消えるの?」

「はい! この化粧水はシミそばかすに特攻で〜、即日消えるのは流石に無理でも毎日寝る前に顔を洗った後に、塗って寝るだけでいいので、おすすめです〜〜。

アタシも使っています」


 昨日から使っているので全くの嘘では無い。


「なるほど、あなた達、お肌がとても綺麗ね」

「あ。触ってみますか?」


 相手が女性なので気軽に声かけする紗耶香ちゃん。

 実際に触ってみろと差し出したのは手だ。


「いいの?」

「どぞどぞ」

「あら〜、本当にすべすべねぇ〜〜。

貴族のお嬢さんみたいに、アカギレ一つないわ。

買おうかしら」


 でもこのまま洗濯を自力でやってれば、いずれ手が荒れるかも。

 洗濯機が無理ならハンドクリームが欲しくなって来た。


「この紅とこのスカートをください」

「はい! ありがとうございます!」


「友達を連れて来ました。この化粧水をください」

「あざす! かしこまり! 割り引きします!」


「せっかく来たし、私もこのスカート買うわ」

「はい! ありがとうございます!」


「この紅、女性にあげたら喜ぶかな?」


 お、本日では珍しく男性客が立ち寄ってくれた。

 20代くらいの男性だ。


「かのぴがオシャンな人ならかわたんな口紅はテンアゲでらぶぽよになれると思われ」

「は? かのぴ? なんて?」


「あ、お客様、かのぴは恋人の事です! 可愛い口紅は喜んでいただけて、恋も上手くいくだろうと申しております!」


 紗耶香ちゃん! 通じる言葉を使って! インパクトはあるけど!


「ま、まだ恋人じゃないけど……」

「可愛い口紅のプレゼント攻撃は効くと思いますよ! お包み致しましょうか」

「じゃあ、頼むよ」

「はい!」

「あざまし!」



 なかなかに好調で、食材を焼く作業が無い分、楽である。


 * *


 休憩時間だ。買い出し部隊のコウタが店に戻って来た。

 アイテムボックス持ちなので、手荷物は少ない。


「パンプキンパイが美味しそうだったので、昼食用に買って来た」


 コウタ! でかした!


「美味しそう!」

「軽飯、助かった! ガチめにぺこだったし」


 紗耶香ちゃんの言う軽飯とは軽食の事だ。



「家で作って来た、クズ野菜も使ってゆっくりコトコト煮こんだスープもある」

「マ? さりげ汁物問題も解決したじゃん」


「あはは、でも私も市場で美味しい物とか買いたいな。明日は私に行かせてくれる?」

「あ! サヤもお買い物したい!」


「ああ、今日は服屋の接客でどっちも忙しいから代わりに行っただけだし、明日は二人に頼むよ。

しかし、女の子は本当に買い物が好きだな」


 好きに決まってるでしょ!

 美味しそうな物を探して買うのは。


「いつか食い倒れツアーみたいなのもやりたいね、お財布が潤ったらサ」


 紗耶香ちゃんも美味しい物をいっぱい食べてみたいらしい。


「そこまでか。腹八分目でいいんじゃないか」

「コータ君、そこは守りに入らず攻めに行こうよ、まだ若いし〜」


「薬局でいい胃薬買えるかも分からないのにか?」

「そうだった! 医者もアレか。多分保険効かない系!」


 私も忘れてた。食中毒とかもあった時はやばいな。


「急募、治癒魔法と毒耐性スキル」


「あのな、奏、そんなん、俺だって欲しいからな」

「サヤも便利な魔法欲しい」

「言うだけはただなので。ほら言霊とか引き寄せの方法」


「突然スピ系の人みたいな事言い出した」


「ガチャで星5引きたい時によくやる。藁にも縋る。

何しろ学生は使える予算が少ない。

なので先にもう引いたと言ってしまうのも手。

それが引いたという因果を引き寄せる訳で」


「おいおい、急にめっちゃ喋るな」


 しまった、オタク特有の早口を。


「あ! サヤもカナデっちのゲームのやつ、手伝ってガチャ画面でポチっと押した事ある」


「あの時はありがとうございました! おかげで推しが出ました! 

必殺無垢なる友人の手! 

私の物欲センサーが強すぎて推しに避けられるので、人に頼りました!」


「あはは! なんで急に敬語なん?」

「感謝の意を……」


 あ! 言った後で今までの課金全部無意味に……なったの思い出した。

 もうゲームの続きが出来ない。

 凹むわ。


 いや、推しに貢いだのは、きっと無駄では無かった。

 運営にも還元されたはず……。


「急に落ち込むなよ、ゲームが出来なくなった事を思い出したのか?」

「それはそう。でも、仕方ないよね……」

「それより、カナデっち、このパンプキンパイ、美味しいよ」

「そうだね、食べよう」


 食べて元気を出そう!

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