第14話 春夏秋冬

「なんとエリーゼが光源氏役だったんだよ」

 学校の廊下で、のぞみちゃんも坂木さかきパイセンも近くに居ないことを確認してから言った。

「は? 演劇でもしたの?」

 えりこが当然の質問をする。私は首を振る。

「ううん。夢の話」

 嫌そうな顔をされたが、構わず突っ切る。

「晩年の光源氏がさ、かつて愛した女たちにひとつずつお屋敷を与えるやつ。ほら、今、近くに男の人が四人居るから。春夏秋冬いけるでしょ?」

「ああ…。学校の図書館の漫画のやつで読んだな…。なんちゅう遊びしてんだよ、このお貴族様はと思ったけど」

「イケメンは全てを許されるのよ」

 良い顔をして言ってやった。


「…と言うようなお話をエリーゼさんがしていました」

 教室移動で、たまさか耳にしたのだった。のぞみちゃんはしきりに首をひねっている。

「光源氏の漫画って何ですか? 学校の図書館にあるんですか?」

「ああ、あるよ。『あさきゆめみし』って言うタイトルの。これ読んで、文学部行く女子生徒とか居るから」

 指を立てる。ちなみに、我が家にもある。

「あと、普通に受験対策になる。『源氏物語』って古文でも結構難しいほうなんだよね。ほとんど主語が省略されているから。学校の図書館に京ことば訳のがあったから読んでみたけど、これが激ムズ」

「へえ…」

 ぽかんとするのぞみちゃん。ただただ可愛い。

「ああ、でも、春夏秋冬って誰がどれだろう?」

 お菓子を食べながら考えた。

「春は…」

石矢いしやさんですね」

 テーブルを指でとんとんする。

「んー、じゃあ、夏はのぞみちゃんだ」

 のぞみちゃんがレモンティーを飲む。

「秋はミコトさんで、冬は坂木父ですね」

 万事解決。

「よし。これで、後はお屋敷をそれぞれの季節の仕様にして、エリーゼさんのお渡りを待つだけだね」

 いや、多分、エリお姉ちゃんは来ませんよ。のぞみちゃんの表情が如実に物語っていたのだった。




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