69.二人の愛の証が増える日

 結婚式から三年が経った。前の世界なら写真を残せたと思うけれど、残念ながらここにはない。代わりに、オウムの獣人が描いてくれた絵が壁にかかっていた。


「ほら、これがパパとママよ」


 私は授かった可愛い娘に、絵を見せた。周囲にすごく期待されて生まれた我が子は、なんと子猫だった。愛猫達が毛繕いし、こまめに面倒を見てくれる。絶対に同族だと思ってるよね。


 オレンジを筆頭にした姉や兄猫は、末っ子扱いの娘マリを大切にしていた。すごく嬉しい。


「マリーはどこだ? パパが帰ったぞ!」


 レイモンドがどしどしと足音を立てて近づく。ぴくりと動いたマリの耳が扉の方を向き、腕の中でぐるりと体勢を変える。飛びかかる前の所作だ。バネを利用するため、ぐっと縮まった。


 開いた扉と同時、マリがふわりと飛ぶ。レイモンドが滑り込んで受け止め、爪を立てられ「いてて」と笑った。


「おかえり、レイ」


「ただいま、アイカ、マリー」


 愛称をレイにしたのは、結婚後すぐだった。引っ越したご近所に、同じ名前の小さなキリンがいて。リトル・レイモンドと呼ばれるのを嫌がっていたの。大きくなって見下ろしてやるからな! と威嚇する姿が可愛くて、私が呼び方を変えた。すると周囲も同調する。


 何でも子ども優先で、この世界は子育てが楽だ。愛猫達も幼子扱いなのか、お散歩に出ても周囲が気にかけてくれる。ご近所さんの目撃情報で、すぐに発見されることが多かった。迷子の心配もほぼ要らない。


「お仕事は終わった?」


「ああ。今日はマリーの妹か弟をお願いしにいく日だからな」


 子供の木に二人目をお願いする予定だ。結婚記念日という習慣がなかった世界だけど、私が言い出して広めた。他にも知識をいくつか利用して、道具が作られたりしている。


 特許という考えはないので、国が知識や功績を買い上げて広めるのが一般的だった。私が広めたのは、お風呂に浮かせるヒヨコ、いくつかの言葉や習慣、リュックサックだ。キャリーは、似たような形状のバッグがあった。


 荷物を背負うときは、風呂敷のような布で包んでいた。それをリュックサックにすればいいのに……と呟いたら、あれよあれよと実現したのだ。貰ったお金で、マリの子育て用品を買おうとしたら、国から支給だった。


 この辺も助かっている。子育てしやすいから、次の子を望んでしまう。一緒に遊ぶ弟妹は欲しいよね。あまり年齢差がつくと、遊びにくくなるから。レイと話し合って決めた。


「マリも一緒でいいのかしら」


「アランが預かってもいいと言ったが、俺は猫の方が頼りになると思う」


 足元でぶにぃとオレンジが胸を張る。ブランやノアールも近づいて、そわそわしていた。尻尾を立てて擦り寄るから、マリを預けてみる。まだ四つ足で歩く娘は、愛猫達に囲まれた。うん、問題なさそう。アイカは笑って頷く。


「オレンジ、ブラン、ノアール。マリをお願いね」


 それぞれに了承を返す猫達に手を振り、レイの抱っこで移動だ。小さなアイカの歩幅に合わせていたら、時間がかかってしまう。夕暮れになれば視力が低下するので、早めに行って帰る予定だった。


「今度は男の子かな、女の子でもいいな」


「俺はどちらでも歓迎だ。種族も問わんぞ。何しろ、アイカの愛情の証だ」


 恥ずかしげもなく、さらりと言えるところがレイモンドらしい。ふふっと笑い、腕の中で立ち上がった。ふらりと揺れたところを支える夫に、背伸びしてキスをひとつ。ぽっと赤くなったレイモンドの足が速くなった。


 子供の木はもうすぐ――早く二人目を授かりますように。








*********************

 明日完結予定です_( _*´ ꒳ `*)_

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