39.あなたのお家に行きたいな
――ブレンダさん家のアイカちゃんは、ニンゲンなのにお使いも出来て偉いのよ!
街の住人達の評価はここで固まった。何というか、虫から身を守れない時点で弱者らしい。その意味では、カナブンを捕まえたオレンジの地位は、アイカより上だった。
「飼い猫に負ける私……いや、日本にいた時から虫は捕まえないけどさ」
ぼそぼそと文句を言うアイカに、訪ねてきたレイモンドは穏やかに返した。
「適材適所だ、いいじゃないか。アイカは手先が器用だし、優しくて気が利く。それに俺を怖がらない」
「まあ、そうだけど……最後のは関係ないでしょ」
ぼそっと返され、レイモンドは鋭い爪の先で、ぽりぽりと頬をかいた。何とも人間臭い仕草だ。この世界では人でも、見た目はあくまでも毛皮付きドラゴンなので、アイカの認識は結構酷い。
「それがな、小型の種族には怖がられてしまって。この街は小柄な者が多いだろう」
当初は訪ねてくるのも気を遣ったのだ。そう言われて、アイカは考え込んだ。カーティスも両親はさほど大きくない。ブレンダやトムソンも同じ。それでも森に住んでいたし。
雑貨や家具を扱う店主はリスで小さいし、いつも買い物に行く肉屋のカンガルーも、ブレンダより小さい。ミルク配達は猫獣人でこれまた、中学生サイズだった。
というか、比較対象が違うのか。レイモンドは見上げるほど大きく、前世のキリン並みの高さがある。森のブレンダの家よりやや大きいことを考えると、小山サイズだろうか。そんなレイモンドが住むなら、山二つ向こうの街は大型生物ばかりかも。
「レイモンドの家に遊びに行ってみたいな」
アイカに悪気はない。そんな大型生物ばかりの街なら見てみたい。ガリバー旅行記の逆バージョンだ。その程度の感覚だった。中級まで常識を修めたことで、自分の言葉が危険ではないと判断した。
ぶわっとレイモンドの鼻先が赤くなり、照れて顔を両手で覆った。短めの前足がピンと伸びて、綺麗に顔を隠している。
「アイカが、俺の家に……」
どの世界でも共通なのだが、男性の自宅に上がる女性は……美味しく食べられてしまうのが通例だ。この部分は日本と同じだった。意訳だとしても、ぺろりと食べられてしまう。主に性的な意味で。レイモンドなら物理的にも可能だが、さすがに丸呑みはしない。
「い、いつ来る?」
「うーん、レイモンドの予定に合わせるよ」
他人様の家にお邪魔するのだから、これは当たり前。アイカは自らの常識で判断した。レイモンドは「いつでも美味しく食べてね」と受け取った。このすれ違い、どこでぶつかるのか。
「部屋を掃除して、アランも外へ片付けるから。明後日以降なら」
照れまくって、いやんいやんと首を横に揺らすレイモンドに、首を傾げながらアイカは笑顔でトドメを刺した。
「うん、じゃあ楽しみに待ってるね」
街の散策を楽しみにしている。アイカの純粋な思いは、レイモンドには別の想いとして伝わった。あなたの奥さんになれるのを楽しみにしている。
ぶんぶんと尻尾を振り回すレイモンドは、明後日までに結婚の申請をしようと大急ぎで帰って行った。
浮かれたアイカは、ドラゴンの背で飛んで向こうの街を旅行するつもりで、夕食時にブレンダに話す。
「あんたって子は……」
両手で頭を抱えたブレンダの様子に、アイカはやらかしたの? とようやく気づいた。
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