37.アランはちょっと違うかな

「この人が……アランさん……」


 想像していたのと全然違う。まず間違いなく、地球人ではない。その認識から始まった。


「ああ、君がレイモンドお気に入りのお嬢さんか。可愛いなぁ」


 レイモンドが怖いから手を出せないとか、そんな話をしている男を上から下までチェックする。アイカの目に映るのは、肌の色が青くて、瞳は赤色の人だった。


 事前情報通りに髪は茶色だし、人間っぽいと言われたら否定できない。髪色や瞳はそんなに驚かないが、肌が青いのは日本以外の国でもないと思う。


「地球って知ってます?」


「ううん、知らないな。同じ世界じゃないのかも」


 不思議と会話ができるが、これはブレンダ達相手でも同じなので、アイカは気にしなかった。いっそ愛猫とも会話できたらよかったのに、そう残念に思う程度である。


「知らない世界の人か」


 レイモンドは驚いた顔で呟いた。彼の目から見ると、さほど変化はないらしい。多少色が違うが、そんなのはこの世界の獣人の種類ぐらい些細な問題のようだ。


 頭部にだけ髪と呼ばれる毛皮があり、爪や牙も頼りない。その上大きさもほぼ同じで、弱い。と揃えば、同じ世界の住人だと思ったのだろう。


「全く違う世界だね」


 アランも同じように苦笑いした。彼は小型動物系の女の子が好きなようで、よく追い回すようだ。アイカは眉を寄せながら、自分の周囲の動物を思い浮かべた。……リス店長のマーク以外、全員自分より大きい。


 でも追い回してないからアランとは違う。張り合うように比較し、アイカは胸を反らした。


「違ってて安心した」


 せっかく来てもらったので、話をするために出前をとった。この世界では外食は日常的らしいが、出前は新しい慣習だ。というのも、数十年前に亡くなった宮大工の京都人が広めたばかり。数店舗しか対応していない。


「アランさんはこの世界に来て、どのくらい?」


「おや、僕だけ「さん」付けは不満だな。アランと呼んでくれ」


「はぁ……で、アランは何年いるの?」


「ざっとこのくらいだ」


 片手を広げたので、五年……いや、四本だった。指が四本で、アイカと比べるなら親指がない。やっぱり地球人じゃないと納得しながら、首を傾げた。


「四年か、短いね」


「四十年だ」


「は?」


 外見は二十代後半くらいに見えるが、四十年以上住んでいる。ああ、この世界は獣人と一緒で外見判断ができないんだな。アイカは中級の常識を思い出しながら頷いた。


「じゃあ、前の京都人を知ってる?」


「ミヤダークの爺さんか? なんたっけ、シミースだか、コータロだか。いい人だったな」


 ニコニコしながら語られた名前は、おそらく「シミズコウタロウ」さん。漢字は不明だが、アイカはほっとした。この世界で暮らした日本人がいて、ちゃんと寿命をまっとうしたなら……私も愛猫達を看取るまで長生きできそう。


 出前で運ばれてきた料理が、蕎麦という名称のパスタだったのは……ちょっと不満があるけどね。期待したアイカは溜め息を吐いた。

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