11.すべてがオーダーメイドの贅沢

「さてと、荷物の担ぎ手もいることだし……明日は買い物に街へ出るよ」


「はい」


 ブレンダが決めれば、逆らう理由はない。現在のアイカは、無職の居候だった。家主に決定権があると思うのも当然だ。荷物の担ぎ手とは、おそらくカーティスだろう。愛猫達のパンチを受けて、目を細めうっとりしていた。嫌な性癖に目覚めてないといいけど。


 アイカの心配をよそに、ブレンダは料理の支度を始める。手伝いに駆けつけると、野菜の皮を剥くよう頼まれた。包丁はごく普通の刃物だが……持ち手部分が輪になっている。それも大きな輪で、猫の頭が入りそう。


「ブレンダ、これって手を入れる穴?」


「ああ、そうだよ」


 手というか、前足というか。入れて見せるブレンダにぴったりだった。彼女の話では、それぞれの種族に合わせて、道具は作ってもらうそうだ。既製品という概念はほぼない。


 服も靴も道具も家具も、すべてオリジナルでワンオフだった。日本人の感覚からすると、すごく贅沢な気がする。ただ現在出会った種族が、熊、狼、巨大鹿となれば、逆に既製品を作る基準が難しいのかも? と思い至った。


 体の大きさや手足の使い方が違い過ぎる。ブレンダやトムソンのように二本足で立てる種族もいるが、カーティスは四本足で生活するらしい。そんな雑談を聞きながら、アイカはなんとか包丁を使い始めた。


 持ち手が合わないと、こんなに使いづらいのか。いっそこの輪を外したい。唸りながらも人参とジャガイモの皮を剥き終えた。今日は魚介類の入ったスープらしい。


「あ、猫達に貝や海老は厳禁だから、今日のスープは与えないでね」


 事前に注意しておく。パンを浸してしまえば、食品ロスだし。そんなアイカにブレンダが目を丸くした。


「へぇ、猫獣人は食べてたけどねぇ」


「獣人は人が入ってるから平気なのかも」


「入ってるって! あんた、ちょ! 笑わせないどくれ」


 ツボに入ったらしく、げらげら笑い出したブレンダ。鍋に顔を突っ込みそうになり、慌てて後ろから引っ張った。一緒に床に転がり、まだ笑い続けるブレンダを見ているうちに、アイカも笑い出す。


 確かに、人が入ってるの言い方はおかしかったかも。文字に入っていると言いたかったけど、完全に言い間違えた。あれだと、中に人の入った着ぐるみみたい。


 一頻り笑い合ったら、やや痛む腹筋を撫でつつ料理に戻る。ひと抱えもある太いパンは、フランスパンに似ている。細かい種類は不明だけど、細長いパンを輪切りにした。


「チーズを載せて焼こうか。猫ってのはチーズもダメかい?」


「大丈夫ですが、猫舌なので」


「はぁん、面倒見るのが大変な生き物なんだねぇ」


 猫の分はチーズをやめにして、表面を炙るのもやめておいた。硬いと食べづらいだろうし。アイカは生のパンを千切って並べ、もらったミルクを染み込ませる。散々遊んだオレンジが戻ると、隠れていたノアールが顔を見せ、ブランが最後に飛び込んだ。


「ご飯だよ」


 お皿を並べて食べるのを確認し、自分達も席についた。やっぱり、椅子と机の高さのバランスが合わない。ブレンダ用の家具だから、仕方ないのかな。そう思っていたら、彼女はいくつかクッションを敷いてくれた。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 ブレンダの年齢は不明だけど、頼れるお母さんって感じかも。よいしょとクッションの上に乗せられ、木製スプーンを手に取った。これも小型のを作ってもらおう。

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