My hero
宇宙(非公式)
04
僕は,「04 Limited Sazabys」というバンドが大好きだ。僕と同じ年に生まれたバンドだが,知ったのは中学一年生になってからだ。その中でも,「My HERO」という曲をよく聞いている。サビの最後の,『My HERO!』と叫ぶところが,特に好きだ。
僕にとって本物のヒーローは,お兄ちゃんだった。いつだって優しくて,かっこよくて,強くて,背はあまり大きくなかったけど,とにかく大きかった。僕たちは正反対だった。お兄ちゃんは好き嫌いがなくて,僕は食わず嫌い。お兄ちゃんは才能があって,僕にはない。お兄ちゃんは器用で,僕は不器用。でも,あの時,小学4年生,小学04年生の時から,僕のお兄ちゃんは,世界一かっこいい。
子供の頃,お兄ちゃんが誕生日に遊びに行くというので,僕も付いて行った。お兄ちゃんは自転車で,僕はキックボードで行った。明らかに自転車の方が速いのに,お兄ちゃんはそれでも僕のスピードに合わせてくれた。そして,お兄ちゃんが「着いたよ」と言ったところは,森を抜けた先にある開けた場所だった。所々に角材が置いてある。それと同じように,かくかくとした顔つきの男達がいた。
後から聞いた話によると,あの男はお兄ちゃんの一つ上,小学五年生だったらしい。つまり,僕と5つ歳が離れていた。何して遊ぶのかな,とわくわくしていると,男が角材でお兄ちゃんを殴り始めた。
「遊びだからな」
そう言う男の顔はにやけていて,気持ち悪かった。僕の目の前の,ごつい男も角材を拾い上げる。二つをそれぞれ両手に持って「こっちは二刀流だぜ」と,がさついた声で言った。角材が振り下ろされる。右手で受け止めようとして,中指と人差し指の間が,切れた。じんじんと痛む。お兄ちゃんを心配させたくなかったが,僕はいつのまにか泣いていた。それも声を出して。不甲斐ない限界に,嫌になる。
もうだめだ,そう諦めた時,目の前の男がうめいた。お兄ちゃんが僕のキックボードで殴ったのだ。
「俺の弟を傷つけるなよ」
見たことがないくらい,お兄ちゃんは怒っていた。そしてこっちに近づくと,お兄ちゃんは僕に耳打ちした。
「お母さん連れてきて。お兄ちゃんは大丈夫だから」
そしてお兄ちゃんは,「負けんなよ」そういって,いつも通り僕を励ましてくれた。
結局あれはお母さん達に伝えれたんだっけ。ただ確かに覚えていることは,その男達は他校に転校した,と言うことだけだ。あの後,お兄ちゃんは僕に「困ったことがあったら言ってよ」そう言ってくれた。お兄ちゃんが一番困っているはずなのに。だから,僕はその特権を未来に託すことにした。とにかく,僕のお兄ちゃんは世界一かっこいい。
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