第23話 Sランク冒険者の少女

 実菜に「ありがとう」と言うと、実菜はえへへと笑った。

 俺は実菜の魔力を使い、触手型のモンスターたちを薙ぎ払う。やっぱり、これだけ魔力が豊富なのだから、実菜には才能があるんだろう。


 モンスターから解放された舞依を、俺は慌てて抱きとめる。


「きゃっ」


 舞依が恥ずかしそうに俺を見上げる。まるでお姫様抱っこのような状況だ。しかも、舞依は裸だし……。

 

「進一さんのエッチ」


「何もしていないぞ!?」


「何かしてくれてもいいんですよ? 幸い、初めては奪われずに済みましたし」


「冗談言ってる場合じゃないだろ……。無事で良かった」


 舞依は嬉しそうにうなずく。

 俺が舞依を地面に下ろすと、「もうちょっと抱かれてたかったな」なんてつぶやく。


「ね、進一さん。あたしともキスします?」


「き、気持ちはありがたいが、実菜のおかげで魔力は足りているから大丈夫だ」


「えー、残念。進一さんがしたくなったら、あたしはいつでもOKですからね!」


 舞依がそんなことを冗談めかして言う。

 まさかそんな次々と女子高生とキスするわけにはいかない。


 目の前の敵を倒すのに集中しよう。


<JKとのキス、羨ましいな>


<必要なことだったとはいえ橋川もやるな……>


<わたしが橋川さんとキスしたかったです!>


 ……コメント欄は無視しよう。俺はプテラゴブリンを何体か倒す。

 そのときドローン経由で通信が入った。上司の上戸からだ。


『大丈夫!? 橋川!?』


「おかげさまで今のところは生きています」


 夏菜子がそこに割って入る。


『先輩、今助けに行きますから……!』


「おまえじゃこのダンジョンのモンスターと戦うのは無理だ」


『で、でも……!』


 一方、上戸はAランク冒険者のなかでも実力者だ。期待できる。


『いい、橋川? 自衛軍も向かっているでしょうけれど、私も会社に掛け合って冒険者を派遣するから!』


「ありがとうございます」


 夏菜子はもちろん、どうやらあの上戸も心配してくれているらしい。

 彼女たちのためにも生き延びなければ……。


 俺は魔法剣を振るい、一歩前へと出る。これまでは受け身だったが、反転攻勢を開始したのだ。


 実菜の魔力のおかげか絶好調で廊下側のモンスターまで倒せてしまう。

 このままなら退路を切り開けるかもしれない。


 だが、そう甘くはなかった。


「あれ……! エンシャント・ドラゴン!」


 廊下に出ると、玲奈が悲鳴を上げた。エンシャント・ドラゴン、それも三体が窓の外からこちらへと向かってくる。


「伏せろ!」


 俺の言葉で全員廊下に伏せる。激しい爆発音とともにガラスが割れた。

 エンシャント・ドラゴンが天井を破壊し、俺たちを攻撃しようとする。


 前回みたいに魔法剣を投げるわけにはいかない。武器がなくなってしまう。

 距離も考えると魔法攻撃だけで片付けたいけれど、可能だろうか。


 いや、やるしかない。

 俺は最大出力でフレアレイを撃った。まずはエンシャント・ドラゴンが一体撃沈する。

 続けてもう一体へとフレアレイを放つ。これも倒し切ることに成功した。


 最後の一体はかなりこちらに近接していたので、魔法剣で一刀両断とした。

 倒せた……!


<橋川、前よりも強くなってないか?>


<もはやただの化け物……というか神か>


<すごーい、橋川さん!>


 実菜たちも驚愕の目で俺を見ている。

 たしかに我ながら常人離れした技術だとは思うが、こんな芸当を続けられるわけでもない。

 

 さらにエンシャント・ドラゴンが湧き出てくる。

 

「いったい、どうなってるの!? 伝説級のモンスターがこんなにたくさん……!」


 はるかが悲鳴を上げる。

 このままだとまた魔力が切れる。少なくとも逃げる場所がない。さらに校舎の倒壊も気になる。


 そのとき、ずっと静かだったアリサが「あれ……」とつぶやき、遠くを指差す。

 まばゆい閃光のようなものが凄まじい速さでこちらに近づいてくる。空中を浮遊しているのだ。

 

 それは人間だった。しかも……中学生の女の子だ。

 ブレザーの制服を来ている。明るいベージュの服に、ブロンドの髪。目立つ容姿の美少女だ。


 そんな彼女は金色に輝く大剣を持っていた。俺はぎょっとした。彼女のことを俺はあまりにもよく知っている。


「……アロンダイト!」


 彼女が叫ぶと、金色の剣は光を増してエンシャントドラゴンたちを瞬間で消滅させた。

 しかも、次々と周りのモンスターたちを消していく。


 その圧倒的な強さに、実菜も舞依も玲奈もアリサもはるかも息を呑んでいた。


 モンスターをすべて一掃すると、彼女は俺のそばに降り立った。

 少女はほっとした様子で胸に手を当てて、泣きそうな目で俺を見た。俺はまっすぐに彼女を見つめ返す。


「助かったよ、智花」


「間に合ってよかったです。あまり無理をしないでください……兄さん・・・


 この少女こそ、俺の義妹……中学三年生の少女、橋川智花だった。

 そして、智花はSランク冒険者であり、英雄級冒険者の序列第七位、「聖剣士」の称号を持っていた。

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