とっておきのを見せてやるよ
魔法合宿二日目。今日の課題は各班で地図を元に森の中のチェックポイントを回って戻ってくるというものだ。
チェックポイントは5か所あり、そこには魔法がかけられた石が置かれている。その石に指定された属性の魔法を打ち込み、既定の値に達したらチェックポイントクリアとなる。
まさか石が攻撃してくるわけじゃないだろうし、昨日の課題に比べたら大変じゃなさそうだ。
もちろん、課題は頑張るんだけど、今日の私の目標は別にある。昨日言いそびれてしまった告白の返事を今日こそはしたい。この合宿が終わるまでには、必ず。
「みんな、俺について来いよ」
地図を手にしたジキウスはそう言って歩き出す。私達も後に続いた。
両脇には青々とした草木が生い茂る道を進んでいく。ジキウスは分かれ道があっても迷わずに先頭を歩いていくから、地図を読むのは得意なんだろう。正直、自分にその役目が回ってこなくてよかった。
「そう言えばエマ、昨日の夜はどこに行ってたの?」
隣を歩くリアナが言った。
「えっ?」
「昨日気づいたら寝てて、目が覚めたらエマが部屋にいなかったから。しばらく待ってたけど、眠気には勝てなかった」
「そっか。昨日の夜はね……」
「俺と一緒にいたんだよ!」
そう言ってレイが私達の話に割り込んできた。
「レイと……?」
リアナが首を傾げる。
「うん! 俺達の将来の話をしたり、楽しかったよね、エマ!」
「レイ君、その話、僕も興味あるなぁ」
そう言ってルイスまで話に入ってきた。
「そもそも僕がエマをあの場所に呼んだのに、どうして君が先にエマと話してたのかな?」
「偶然、エマがあの時間にあの場所に来ることを知ったから、先に来て待ってたんだよ」
「へぇ……」
あれ、なんか不穏な空気……? 二人の間に割って入る。
「ルイスも昨日のことはその辺にして……」
「よくない」
声を上げたのはリアナだった。
「私の知らないところで3人楽しく会ってたってことでしょ。私のことも起こしてくれればよかったのに」
そう言ってむくれてしまった。
「違う、そういうわけじゃ……」
リアナは先頭を歩くジキウスの腕をつかんだ。
「リリリ、リアナ!?」
ジキウスが情けない声を上げる。
「私とジキウスだけ、仲間外れ。寂しい」
「ごめんね! 今度はみんなで出かけたりしようね」
「うん、分かった」
リアナはジキウスの腕をぱっと離して、私の隣に戻ってきた。
「着いたぞ。ここが最初のチェックポイントだ」
ジキウスはそう言って立ち止まった。開けた場所に2mくらいの大きな石が置かれている。
石に近づくと、円の中に星のような模様が入ったマークが刻まれていた。
「これは光属性の印だね」
ルイスが言う。その言葉にジキウスが二ッと笑った。
「それなら俺の出番だな。昨日はあまり見せ場が無かったから、とっておきのを見せてやるよ」
そう言ってジキウスは懐から出した杖を構える。
「いいか、これは王家伝統の光魔法。間近で見られるなんて特別だからな」
そして大きく息を吸い込む。
「ロイヤルサンダーボルト!」
ジキウスの杖の先から出た光は空に伸び、標的の石に目がけて大きな雷が落ちた。あまりの明るさに視界がチカチカする。
「ふぅ……どうだ、見事だろ。なんせあのロイヤルサンダーボルトを生で見られるなんて、まずないからな」
そう言ってジキウスは胸を張った。
「ねえ、ジキウス」
リアナが口を開く。
「どうしたリアナ。お礼の言葉なんて必要ないさ。今の光景を存分に焼き付けるといい」
「ロイヤルサンダルなんとかって初めて聞いたけど有名なの?」
「はぁっ!?」
ジキウスは目を丸くした。
「僕も知らないんだ」
「私も」
私とルイスはリアナに同意する。
「お前達、ロイヤルサンダーボルトを知らないなんて正気か!? 王位継承権のある者しか習得を許可されない、全国民が一生に一度は生で拝みたいと渇望するあのロイヤルサンダーボルトを!? 逆によく今まで知らずに生きてこられたな!」
「なんか、ごめんね」
ルイスは申し訳なさそうに言った。
私とリアナは知らないとして、そこまで有名ならルイスが知らないのは珍しいことなのかな。まあ、ルイスは初めて会った時、
「あのロイヤルサンダーボルトが生で見られるなんて……!」
「レイ、お前だけか……」
ジキウスは寂しそうにレイの肩を抱いた。
その後、火・土のチェックポイントもクリアして、私達は先へと進んでいた。道はジキウスに任せていれば問題ないし、チェックポイントもただ魔法を打ち込めばいいだけ。簡単な課題、なんだけど……
「魔法合宿というか、もう登山だよね……」
平坦な道は終わり、気が付けばどこまでも続く様な坂道になっていた。地面に飛び出した木の根に足を掛けながら進んでいく。
「ハァ……ハァ……」
最後尾のリアナは息を切らしながらよろよろと歩いている。私もきついけど、リアナはそれ以上に辛そうだ。前を歩くルイス達は私とリアナを気にして振り返ったりしつつも、しっかりとした足取りで進んでいる。
先頭のジキウスがこっちを振り向いた。
「リアナ、休憩にしようか」
「いや……さっきも休んだから……がんばりゅ……」
まさかこんな試練があるなんて……もっと普段から体力をつけておけばよかった。
その時、ドドドと土を蹴るような音が聞こえ、地面が揺れ出した。
「誰かの土魔法かな?」
レイが言った。その音は段々と近づいてくる。私は後ろを振り返った。
「……え?」
そこには鹿の群れがすごい勢いで坂道を登ってくるのが見えた。一番後ろを歩くリアナは疲れからか、この事態に気づいていない。
「危ない!」
私はリアナを道の端へ押しのけた。踏み出した勢いで足元が滑ってバランスが崩れる。体は登山道を外れて谷側の斜面へ投げ出された。
あ……これはマズいかも……
「エマ!」
リアナの叫び声がする。落ちる、と思った体は誰かに抱えられて斜面を滑り降りた。
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