どうしてこうなった
静けさが漂う森の中で、私は危機に立たされている。
「エマ! 今日から一泊二日、一緒に過ごせるなんて嬉しいよ!」
キラキラの笑顔で私にそう言ってくるのは、あのレイだった。
「エマ、その男は誰?」
リアナがいつもよりワントーン低い声で尋ねる。
「エマを国外追放に追いやろうとした犯人だ」
ジキウスが答える。
「エマ……僕と図書室で会わない間に随分仲良くなったんだね?」
ルイスが微笑む。
どうして、こうなった……!
遡ること30分前。今日から1学年の魔法合宿が始まった。学園の所有する広大な森で一泊二日、魔法の野外演習をするというものだ。私達は森の中にある広場に集められていた。
「エマと一緒の部屋に泊まるなんて楽しみ」
オリエンテーションが始まる前、リアナはそう言って微笑んだ。出会った頃に比べると随分表情が豊かになったと思う。
「そうだね。演習の班も同じだといいな」
演習班は5人一組。それぞれが持つ魔法の属性に沿って、「火・水・風・光・土」で一班に割り振られる。私は水、リアナは火属性だから、同じ班になる可能性も十分ある。
「それでは、班の割り振りを発表する。名前を呼ばれたものは前に出てくるように。一班、……」
そして、今に至る。
「エマのことは俺が守るから安心してね!」
レイは土、ルイスは風、ジキウスは光属性と確かにバランスよく振り分けられてはいるんだけど、まさか同じ班になるんて……!
昨日のあの一件で、私はレイ攻略の鍵を開けてしまったらしい。事情を全部知ってるからって、つい口を出してしまったらこんなことに……というか、君、ツンデレ系じゃなかったの!? ツンはどこ行った!?
「距離が近い。エマから離れて」
リアナが私とレイの間に割って入る。まずい、リアナの表情が無に戻ってる。
ジキウスがレイに詰め寄った。
「レイ、お前、エマに何したのか分かってるのか?」
「分かってるよ! 酷いことをしたって分かってる。だから、エマに信用してもらえるように誠意を尽くすって決めたんだ。側にいてもいいって、エマも昨日言ってくれたよね?」
言ったか……?
「エマ、一体どういう事かな?」
「ルイス、その微笑みは逆に怖いって! ちゃんと説明するから!」
私は昨日の出来事を話した。言いにくい家の事情のことはレイが自分で話してくれた。
「とにかく、そういう事情があって私はレイのことを恨んだりしてないし、みんなもそういう風に接してほしい」
「……エマがそう言うなら」
「納得はいかないが仕方ない。同じ班になった以上、協力せざるを得ないからな」
リアナとジキウスは渋々といった様子で言った。
私は何も言わないルイスに顔を向ける。
「僕はエマの言うことに従うよ」
「うん、ありがとう」
ひとまず、これで大丈夫、かな?
一日目の課題は先生が今回のために用意した植物の花を咲かせるというものだった。班のメンバーがもつ魔法を組み合わせて協力することが目的みたいだ。
先生が魔法を唱えると、地面がガタガタと揺れ始めた。そして各班の目の前の土が大きく盛り上がり、そこから緑色の大きな芽が現れた。それはまっすぐに茎を伸ばしていき、見上げるほどの高さになったところで先端に大きなつぼみを付けた。
え、そこら辺の木なんかより全然大きいんだけど? こんなものを一体どうしろと!?
青々とした葉っぱが陽の光に照らされて輝いている。ぎゅっと固く閉じたつぼみは開きそうもない。
「制限時間は10分。それでは開始!」
先生の声に各班は相談を始めた。私もみんなの方を向く。
「えっと……どうしようか?」
「植物っていうなら光、土、あとは水かな」
ルイスの言葉にリアナが頷く。
「私もそう思う」
4人の視線が私に向けられた。水ってことは私か……!
「分かった。じゃあ、やってみるね」
私はその植物に向かって杖を構える。上手くいきますように!
「レイム・フォール!」
植物の上に雲が現れ、ぽつぽつと雨粒を降らせた。やがて雨足は強くなって……
「ごめん、小雨が限界!」
落ちてくる雨粒は葉っぱを伝って地面を少し湿らせる程度だった。この植物の大きさには足りないだろう。
実技苦手なんだよなぁ……座学ならそこそこいけるんだけど。
「エマすごいよ! この調子でちょっとずつ水を与えていけば、いつかは土も潤って……あれ?」
レイはそう言って首を傾げた。
「ごめん、私の魔法の力が弱いばっかりに……」
「違う違う! そうじゃないよ! ほら、この植物の根元を見て!」
「え?」
そう言われて目を向けると、地面から湯気のようなものが出ていた。
「なにこれ!?」
「もしかすると、日差しが強すぎてエマの降らせた雨が蒸発したのかもしれないね」
ルイスはそう言った。
「地面の中でそんなに熱くなったってこと!?」
「うぼぼぼぼぼぉ!」
うめく様な音がして視線をあげた。目の前の植物は真っ赤に染まり、葉は逆立っていた。これは一体……!?
「伝え忘れていましたが、不適切な対処を行うとこのように植物が攻撃態勢をとることがあります」
遠くから先生の声が聞こえた。
それ絶対伝え忘れちゃいけないやつ……!
葉っぱから棘のようなものが無数に現れ、茎が反動をつけるように大きくしなる。
「燃やすか」
そう呟くとリアナは植物の前に進み出た。
「リアナ、危ないから下がって! 俺が何とかするから!」
そう言ってジキウスがリアナに手を伸ばしかけた時、リアナは杖を振るった。
「フレイム」
すると植物は大きな炎に包まれた。
「さすがリアナ! ありがとう!」
私の言葉にリアナは照れたように笑った。
「役に立ってよかった」
「な、なんだ今のは!?」
声を上げたジキウスだけじゃなく、ルイスとレイも目を丸くしている。そうか、この3人は私達とクラスが違うからリアナの魔法を見たことがなかったんだ。
「リアナの火炎魔法はうちのクラスで1番火力があるんだよ。微調整はちょっとアレだけど……」
「丸焼きなら任せて」
リアナは胸を張った。
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