秘密のレッスン

「さてルイス、今日もアピール特訓の時間だよ!」

「はい、先生」


 私が仕組んだルイスとリアナの出会いの日から、私はリアナを連れて第二図書室へ頻繁に訪れるようになっていた。リアナは自分から行こうとは言わないけど、私が誘ってもめんどくさそうな顔はしなくなったから満更でもないんだろう。


 紅茶を飲みながら三人で他愛もない話をする。私は二人の会話の邪魔にならないよう、優秀な聞き役に徹していた。そして、17時になると習い事があると言ってリアナは帰ってしまう。


 その後の時間に、私とルイスはリアナにアピールするための特訓をしていた。


「今日のテーマは『ギャップ萌え』です!」


 私が言うと、ルイスは手を挙げた。


「先生、ギャップ萌えとはなんですか?」

「説明しよう。ギャップ萌えとは相手の意外な一面を見たことで好感度が急上昇する、老若男女問わず有効な定番テクニックのことだよ」

「おお……なんか凄そう」

「チャラい男が実はピュア、お嬢様が実は庶民派、おじさんみたいなおばさんだと思ったら実はおばさんみたいなおじさんだった、とかね。世の中には数多のギャップ萌えが存在するんだよ。そんな中でも、ルイス君。君は世間一般からどんなイメージを持たれているか分かるかい?」


 私の問いかけにルイスは首を傾げた。


「そんな個性はないと思うけど……」

「甘い! この世界で無個性な人間は存在しないんだよ! 君は優等生、いわゆる真面目キャラだね。ただし、このキャラには大きな問題がある」

「な、なんでしょうか」

「それはギャップを出しにくいところだよ。元々好感度の高いキャラほど、他の一面を見せた時に好感度が上がりにくい。下手な一面を見せれば、反対に好感度が大暴落する可能性もはらんでいる」

「そんな……! 先生、僕は一体どうしたらいいんですか!」

「安心したまえ、ルイス君。そのために私がいるんじゃないか」

「先生……!」

「さてさて、一通りの説明が済んだところで、いいギャップを探していこうか」


 とはいっても、ルイスは見た目から真面目さと人の好さがあふれ出してしまってる。ゲームのシナリオでもそれ以外の一面は出てこなかった。真面目キャラの定番ギャップ、「実は裏社会の…」とか「実はドS」とかそんなものは持ち合わせてないだろう。


「参考までに、今まで誰かに話したことない話、してみてよ」


 その話の中でなにかギャップに繋がるヒントがあるかもしれない。


「ええと……実は左利き!」

「そういう事じゃないんだなぁ! もっと、こう……内面が見えるようなさ」

「じゃあ、実は好きな子をついいじめちゃうタイプなんだ」

「ギャップのために嘘はつかなくてよろしい」


 まあ、そんな簡単には出てこないか。


「じゃあ、次また会う時のためにちょっと考えてみてよ。私もなにかギャップを引き出す方法がないか考えてみるからさ」

「分かった。ありがとう」


 今日はこのくらいにして帰ろう。あんまり遅く帰るとメイドのアリスがうるさい。


 私は立ち上がった。


「そうだ、エマ」

「ん?」

「今度の休みに外で食事会でもどうかな。もちろん、リアナも誘ってね」


 食事会……ゲームのシナリオでも確かそんなイベントがあったな。


「いいね。明日、リアナに聞いてみるよ」

「そっか、よかった。親戚がたくさん食材を送ってくれたから、仲良くしてくれる二人にも手料理を振る舞いたいと思ったんだ」

「手料理!?」

「うん。料理はちょっと自信あるんだよね」

「それだ!」


 ギャップというにはちょっと振れ幅が小さいかもしれないけど、リアナは私にお菓子をせがんでくるくらいだから、アピールに「食べ物」は効果的かもしれない。


「当日は『手作り』っていう事を強調していこう。リアナは絶対に連れてくるから、ルイスは食事の準備に集中して!」

「わ、分かった!」


 これはルイスの新たな魅力をアピールできるチャンスだ。私も精一杯サポートしないと。

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