帰路 満月

鍵付きの絵本の中で暮らす母から

師走に届く残暑見舞い


僕はまだ無理やりに夕日に向け

笑うようなイデアを持ち


「どおなつを片手に指名手配犯に

べっこうして帰ってやる」

※べつこう…子どもがするあっかんべー


大好きなケーキも独り占めできず

あとふたつ ふたつのこす


「しね」と思う気力もなく疲れ

託されし1円よ サイフの奥でおやすみ


頭には家出の計画書隠し

「帰りたい月か」と零す 齢十七


終電の優先席

カップルが寝言で歌う

「キリンジ エイリアンズ」


神様に魔法を奪われた僕と

愛と妬みを燃料に燃え続ける街


鍵盤の左端を踏むような

マイナス一万の人生

狐がいる


朝に出た月と今日一日がんばらない

約束をしてしまうのだ


くらき血に星々は瞬かぬ事実が

この胸をいぢめてやがる


「たくさん殺すぞ」と記せし手帳を

川面に叩きつけた帰路 満月

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