第8話 双子だからこそ正規の入れ替え
「そうよ、ここに載っているのは私じゃなくて、私になりきって写ってくれた奏天。最初は乗り気じゃなかったみたいだけどね」
お母さんは夕食の用意を終えて、ダイニングの椅子に座って当時のことを話してくれた。
「明日、現地集合で写真撮りに行くんだろう?」
「そうだけど……?」
啓太に言われて、奏天は何を今更というように答える。
南桜高校の卒業アルバムの個人写真は、一定の期間に駅前商店街にある写真館に出向き、撮影してくることになっている。
もともとは、撮影日を指定してしまうとその日に病欠したり、入試の都合で撮影ができない子のためのスケジュールを組み直すより、最初から設備の整ったスタジオで撮影した方が写真館の方でも出張の手間が不要という理由で、各自が年明けに撮りに行くのが恒例になっている。
生徒の個性が尊重される南桜高校の卒業アルバムでも、そのポリシーは引き継がれていて、個人写真の条件としては制服を着ていて、目に余るような化粧などを施していなければ、ポーズや持ち物は自由。部活に所属している生徒は楽器やニフォームやスポーツ用品などを持ち込んで撮影することも可能。その分写真も大きくなり、普通は各クラス見開きの二ページで収まるところが、倍の四ページに渡るところがこの学校らしい。
マジカルサイエンス部のメンバーは、写真館に連絡したときに時間の空いているという土曜日の午前中に現地集合ということになっていた。
「裕昭と話したんだけどさ、瞳海の分をどうしようかってことになって……」
「そっか……。今日にでも目を覚ましてくれれば、明日車いすに乗せてでも連れて行くのにね……」
年末に裕昭の病気を治すために、命を懸けた魔法治療で体力を使い果たした瞳海はまだ病室で眠ったまま。
「森田先生にも相談したんだけど、特例で奏天が瞳海の姿をして写ればいいんじゃないかって。そもそも誰も見分けられないんだから。奏天が了解してくれれば、職員室の中の声は何とかするってことになってさ……」
「そっか……。その手はあるけれど、あたしなんかが瞳海の代わりに写るって。そりゃ、双子だから出来ないこともない。でも、それは瞳海に失礼だってならないかな……」
そう答えるということは、奏天の中でも考えたことがあるのだろう。ただ、奏天のポリシーとして、双子である瞳海は「もう一人の自分」という認識だから、幼い頃の遊びとはまた違って迷っている部分もあったようだ。
「奏天の気持ちも分かる。ただ、期限までに撮影しないと、適当な学生証とかのものが入っちまう。特に瞳海は高等部に新制服を導入させたキーマンだ。その瞳海が適当な写真で穴埋めされちまうというのが、俺には納得いかなくてさ」
「啓太……、そこまで……」
「まぁ、裕昭が後ろ半分は付け足し。あいつも我慢できないみたいだ」
「そっか……。命の恩人だって言ってたもんね。分かった。前向きに検討する。森田先生にもそう伝えておいて?」
翌日、写真館には撮影に入る三人が集まっていた。
マジカルサイエンス部のメンバーともあって、啓介は理科室から借りてきたフラスコやビーカー、奏天は出張占いで時々学校に持ってきた水晶玉、裕昭は桜花祭などですっかりお馴染みになった夢砂のアンプルを持ち込んでいた。
「奏天、その袋は?」
写真撮影だから、それほど荷物は必要ない。そんな奏天が大きめの紙袋を抱えていた。
「瞳海の制服よ。あたしがブレザーで撮って、セーラーに着替えてから瞳海の代わりになって撮るわ」
そのために必要な瞳海のヘアゴムなども持ってきたという。
撮影は奏天の言うとおり、彼女を最初に撮影。男子二名が撮っている間に着替えて別人という形で進められる。
別室から出てきた姿を見ると、奏天と瞳海が一卵性の双子だと改めて納得する。
「俺達じゃなかったら絶対に見分けつかねえなぁ」
「裕昭、スカーフだけ結んで? 瞳海のそばにいたから結びの癖とか分かるでしょ?」
「まぁな……」
裕昭が胸元のスカーフをいつもの瞳海と同じように結んで、何と一緒に撮るのかと思えば、奏天の制服を着せたトルソーに両手を添え、控えめの笑顔でフレームに収めた。
「なるほど、お見事。これなら誰もが納得するし、そもそも分かんねーよ」
「不思議なの。あたし、瞳海の髪型の真似ってほとんど経験なくて。でも、着替えているうちに、あの子の声でヘアゴムもう少し上とか教えてくれた気がした。だから、このままお見舞いに行こうと思って」
「驚くんじゃね?」
「眠ってるし、事後だけど一応報告しておこうと思って」
その計画に男子二人も賛成し、三人で病院に向かった。
「そんな事があったんだ……。お母さん、奏天さんに怒ったの?」
「ううん。逆にお礼を言ったわ。髪型のことも、私はその時は全く意識がなかったから、きっと奏天の中に居させてくれたんだって。みんなあとから聞いた話だけどね」
そんな話の直後、我が家のインターホンが鳴ったんだ。
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