第60話 OLとサラリーマン

 数日後

 

 多くの人が死んだ。


 だが、これは通り魔が起こした殺人とは色合いが全然違う。


 ダンジョンと関わりのある人のうち、権力を持ち、恵まれてない能力者や無能力者を差別する流れを作った人だけが死んだ。


 当然ながら、権力を持っているもののほとんどは年老いた人だった。


 中には無能力者もいた。


 既得権益のためなら、自分が能力者であろうが無能力者あろうが、それはさして大事ではないというわけか。


『Older men declare war. But it is youth that must fight and die』


 かの有名な政治家の格言だ。


 中卒の俺が覚えている数少ない英語でもある。


『戦争は老人が始め若者が犠牲になる』


 血の女王である蘭子さんは、Older menを排除したのだ。


 問題の核心をピンポイントで取り除いた。


 だけど、これで良くなるのか。

 

 問題の原因を潰しても、それは問題の解決にはならない。


 もっと深刻なトラブルが新たに生まれる可能性もあるのだ。


 しかし、俺がいくら頭を抱えて考え込んでも、これといったいい考えは出てこない。

 

 だから、俺は妹と躑躅家の美女たちを守りながら、騒ぎに乗っかって悪さをする人を懲らしめた。


 蘭子さんの話をしようか。


 彼女と彼女が率いる組織は、目的となるターゲットをやっつけた後、すぐに姿をくらました。


 なんの未練もなく、自分の力を大衆に見せびらかすこともなく潔く去ってしまった。


 蘭子さんの行動は、普通のテロリストの考えとは次元が違った。


 普通のテロリストなら、偉い人を拉致して身代金を要求したり、なんの罪のない一般人を犠牲にしてでも、自分らの力を見せつけるものだ。


 しかし、蘭子さんは欲張ることなく、いなくなった。


 SNS上では、血の女王を賛美する声で溢れている。


 テレビでも、俺を無理やり持ち上げて世論操作をすることはしない。


 不思議な感じだ。


 ど偉い人たちがたくさん死んだというのに、この国はとても静かでちゃんと回っている。


 外に行けばスーツを着たOLやサラリーマンが仕事をしており、犬を散歩させる人やカップルの姿も散見される。

 

 むしろ、前より活気があるように思える。


「おお、でんこ様だ!!」

「我らの英雄!でんこ様!!」


 俺が街を巡回していると、俺の顔を知っている多くの人々が寄ってきた。


「こ、こんにちは」


 俺は彼ら彼女らに挨拶した。


 真昼の日差しに照らされた人々はとても明るい表情を浮かべている。


 うち50代と思しきおばさんがいう。


「いや〜でんこ様がちゃんと守ってくれるから、安心できるんだよな」


 俺は照れ隠しに後ろ髪を掻きながら誤魔化し笑いをした。


 そしたら、メガネをかけたOLっぽい女性が俺の方へやってきた。


「で、でんこ様!」

「はい」

「本当にありがとうございます!!」


 彼女は丁寧に頭を下げる。


「い、いや。俺は頭を下げられるようなことはしてません」

 

 と、宥めるような口調で言うと、メガネのOLさんはとてもスッキリした感じの表情で俺の顔を見つめた。


「いいえ!そんなことありません。でんこ様のおかげで、上司からのパワハラがなくなりました!」

「ぱ、パワハラ?」

「はい!血の女王様の働きに負うところもありますけれど、でんこ様がお偉い方々の味方にならなかったおかげです」

「関係ありますか?」

「もちろんありますよ!!はあ……とても幸せです」

「……」


 OLが言っていることがなんなのかさっぱりわからん。

 

 俺とパワハラはなんの関係もないように見えるが。


 と、小首を傾げていると、今度は30代の荒んだ顔をしたスーツ姿のお兄さんが俺の肩に手をそっと乗せた。


 敵意はないから、気にせず彼を見ていると、彼もまた明るい情報で口を開く。


「僕も似たようなものだ。君のおかげで、上司からのパワハラが無くなった。君と血の女王は数え切れないほどの人を救っている」

「……」


 またもやわけのわからないことを言われたので、俺は苦笑いをした。


 けれど、このお兄さんの目は輝いているままだ。


「立ち上がる勇気がないから、僕はずっと利用されるままだった。でも、君と血の女王は行動で示した。ありがとう。これまで自分は大切なものを奪われ、蹂躙されてきたんだ。けど、もう我慢しない。やられたらやり返さないとな。偉い人たちを殺戮した血の女王のように」

「そうですね」


 彼が言わんとすることが少しは理解できた気がする。


 OLのお姉さんとサラリーマンのお兄さんは俺にお金を渡そうとしたが、俺は「大丈夫です」と断って別れを告げた。


 しばし街を歩く俺。


 商店街に差し掛かると、活気あふれる光景が目に入る。


 俺が安堵のため息をついていると、


 大きな家電量販店の建物に設置してあるLEDパネルからは総理大臣の姿が映っていた。


 テロップには『今回の騒動についての記者会見』と書いてある


「え?記者会見!?」

「今やるの?遅すぎ」

「どう出るのかな?」

「顔真っ青ね。まあ、当然か。発言の内容によっては血の女王様にまた殺されるかもわからないし」


 みたいな声が聞こえる中、


 俺は総理大臣の声に耳を攲てた。







もうすぐ星4000いけそうです!


ご協力のほどよろしくお願いします(๑╹ω╹๑ )

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