第46話 蘭子さんの決意

 蘭子さんは俺のワンインチパンチをもろに食らって凄まじい勢いで飛ばされてしまう。


「ぶあっ!うっ!」


 ダンジョンの硬い壁にぶつかった彼女はあえなく落ちて、喚き聲をあげた。


 お腹を抱えて苦しむ彼女。


 彼女の白いシャツは俺のパンチによって破れ、真っ白な肌がダンジョンの薄暗さと対比して目立つ。


 彼女の上半身を隠しているのは大きな黒いブラのみだ。


 あられもない姿だ。


 俺は彼女のところへ歩み出す。


 お腹を抱えていた蘭子さんは俺の足音を聞いたのか、倒れた状態で俺を見上げた。


「この私が……ん……」


 彼女の口からは僅かながら血が流れてくる。


 だが、


 まだ諦めてはないようだ。


「この!」


 蘭子さんは倒れた状態で、フューリーブレードを召喚した。


 俺はそんな彼女のお腹を踏んづける。


「あああああああ!!!!」


 彼女は悲鳴を上げた。


 甲高い声は俺の鼓膜をも打ち破る勢いだ。


 俺に踏んづけられたままのたうつ蘭子さん。


 とても心が痛むが、これは早苗さんのためであり、彼女のためでもある。


 俺は腰をかがめて、彼女の耳で呟いた。


「全力の時と比べて10分の1程度のワンインチパンチだったんですけど、暴れたら10分の2、味わってもらいますよ」

 

 言って俺の足を蘭子さんのお腹から離した。


「ん……」


 彼女はさっきより大人しくなった。


 そして、悔しそうに歯軋りしながら俺から目を背ける。


「……犯すか殺すか、好きにしろ」

「……何を言ってるんですか」

「私は祐介を手に入れて私だけのものにするために戦い挑んだ。でも負けた。私はクソ兄貴にも、祐介にも勝てなかった」

「今まで負けたことないって言ったんですよね?」

「二人以外だと負けたことは一度もない」

「なるほど」


 蘭子さんは痩せ我慢しながら必死に歯を食いしばっている。


 俺はそんな彼女に言う。


「別に、蘭子さんはお兄さんに負けてないと思いますよ」

「え?」

「だって、ダンジョン協会の精鋭部隊が束になっても倒せないSSランクのモンスターを一発でやれて、なおかつ血の女王としてみんなに恐れられる強い人になりましたから」

「……きっと軽蔑するんだろう。いつものように」

「そんなことはない。こんなに強くなった蘭子さんを認めないなら、それは男じゃない。臆病者だ。俺は認めますよ。蘭子さんの強さを」

「……」


 蘭子さんは俺から目を逸らす。


 気のせいかもしれないけど、頬がピンク色に染まっている。


 体の具合でも悪いのか。


 まあ、10分の1とはいえ、俺のワンインチパンチをもろに食らった。


 女性にとって大事な子宮のところには被害が出ないように手加減してやったが、こうやって会話ができているだけでも奇跡のようなものだ。


 それにしても、胸とお尻以外だととても華奢だな。


 背はちょっと高めだが、やはり、蘭子さんは女性だ。


 俺は横になっている蘭子さんを見つめる。


 淫らな長い金髪、整った目鼻立ち、象牙色の肌、大きすぎる胸、細い腰、そして長い脚まで。 


 早苗さんの見た目が20代半ばだとすると、彼女の見た目は20代前半。


 こんな美しい人がテロ組織のトップってわけか。


「……早くしろ」

「なにをですか」


 俺が問うと、彼女はいきなりズボンを下ろそうとする。


「おい待て待て!!腹パンされて苦しんでいる美女を犯すような趣味はないんですよ!完全にマニアックなR18だ!!」

「え?」

「……」

「ん……」


 いや落ち込むなよ!!


 と突っ込んでやりたくなったが、まあ、そろそろ解放してやることにするか。


 俺は彼女の体にヒーリングをかけてあげた


 やっと痛みから解放された彼女は立ち上がる。


 敵意と殺気はない。


 何かを納得したような顔だ。


「蘭子さんはこれからなにをするつもりですか?」


 俺が問うと、蘭子さんは真面目な表情で問う。


「その前に、一つ答えて」

「ん?」

「戦う前に、早苗ちゃんが私の幸せを願うって言って、祐介も同じって言ってたよね?本当、本当に祐介は私が幸せになることを望む?」

「もちろんです」


 俺も真面目な顔で返答すると、蘭子さんは微笑んだのち小声で呟いた。


「道標ができた」

「道標?」

「私が悪魔にならないように、ちゃんと私を導いてくれる道標」

「なにを言ってるんですか?」

「ちょっとやらないといけないことがあるんだよね。それだけ済ませてまたくるわ」

「え?おい、ちょっと!」

「私の愛は重いわよ。ん……ジュル」

 

 と、言い残して蘭子さんは消えてしまった。


 蘭子さんは一体なにをするつもりだろう。


 その疑問だけがずっと尾を引いている。


 だけど、彼女は何かを決心したようであった。

  

 俺はそんな彼女の決意を尊重してあげなければならない。


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