第34話 謎の金髪女

 絶対零度に近いこの青い光は、俺の体の全てを凍らせると言わんばかりの勢いだ。


 だが、


 俺の手から出る真っ白な光は、その冷気をことごとく蒸発させる。

 

「キイイイ!?」

 

 さっきまで殺気を剥き出しにしていたキングアイスドラゴンは、自分の攻撃が通じないことを知り目を丸くした。


 そして、俺の拳から発せられる凄まじい熱を感じ取り、やつは後ろに下がった。


 途中、やつの尻尾の一部が俺の拳の光によって溶けてしまう。


「キイイ……」


「な、なんだよ……あの光は……」


 遠くから霧島の声が聞こえた気がするが、俺は無視する。


 戸惑うキングアイスドラゴン。


 それもそのはず。


 やつを瞬時に蒸発させるほどの熱と光を俺は生じさせたのだ。


 どうしてそんなことが出来るのか。


 魔力融合。


 それは体内のマナを圧縮することによって得られるエネルギー。


 ただ単に圧縮するだけなら、マジックボールのようなしょぼいものになる。


 だけど、魔力を構成する根源自体を変化させるほどの強い力で圧縮すれば、爆発的なエネルギーと光が生まれる。


 一億度くらいだろうか。


 だけど、この境地に達するためには、膨大な魔力がいる。


 膨大な魔力を使い、マナ圧縮するという極めて非効率的な行為。


 俺が開発したスキルだ。


 けれど、やつはキングアイスドラゴン。


 氷属性を持つモンスターの中で頂点に君臨するモンスター。


 当然、やつは自分が頂点にして最強である認識を持っている。


 ゆえに、


「キイイイイイイ!!!!!」


 やつは冷気を口と手に含ませ、俺の方へと走ってくる。


 愚かなやつだ。


 大人しくSSランクのダンジョンへ帰ったら命は助かるものを。


 俺は拳を強くにぎり、光の手を伸ばした。


 すると、やつの拳を俺の掌がぶつかる。


「き、キイイイイ!!!」


 俺の手に触れた途端、やつの拳は溶け始める。


 今度は尻尾で俺を打とうとするが、俺は身体強化でやつの尻尾に蹴りを入れる。


「っ!!!」


 飛ばされたキングアイスドラゴン。


「……ダンジョンみたいに悠長に戦っている暇なんかない」


 そう。


 ここは人がいっぱいいるところだ。


「キイイイイイ!!!」


 だが今のキックで降参してくれると思ったが、むしろ逆効果だ。

  

 どうやらプライドに傷がついたのは荒波だけじゃないようだ。


 やつは翼を広げ、飛び上がる。


 そして、ツノにありったけの魔力を注ぎ込んだ。


「キイイイイ!!」


 そしたら、ツノは青い光を帯び、一つの光球のようなものが現れた。


「っ!あれは……」

 

 あの光の球が爆発すれば、この浅草一体に住む生き物は残らず凍死してしまう!


 キングアイスドラゴンの魔力の結晶。


 アイスデットボール(俺がつけた)


 やつの必殺技だ。


 俺は身体強化を使い、アイスデットボールへ手を伸ばす。


 Sランクとて、一瞬で凝ってしまいそうな冷気だ。

 

 だが、


「はああああああ!!」


 俺の拳に宿っている魔力融合も引けを取らない。


 青い光と白い光。


 二つの光は螺旋のように絡まり合い、空へと飛んでいき、


 爆発する。

 

「っ!防御膜」


 と、俺は素早く防御膜を二つの光に張った。


 だが、


 1mm以下の小さな青い光が抜けてしまう。


「……」


 その1mmの青い光は爆発した。


 結果、


 約半径3キロ以内に雪が降り始める。

 

 あんな点のようなものでも、こうだ。


 もし、アイスデットボールが全部爆発したらと思うとゾッとする。


「き、キイイイ……」


 力尽きたキングアイスドラゴンは凝った隅田川に墜落し、息を弾ませる。


 幸い、二つの光はなくなり、水蒸気だけが防御膜の中にあるのみだ。


 俺はやつのお腹の上に降り立つ。


「キイイイイイ!!!」


 やつは俺を睨んで、手を上げた。


 俺を殺す気だ。


 SSランクのモンスターは大体こんな感じだ。


 実にしぶとい。


 俺はそんな奴らを


 ずっと狩ってきた。


 俺は魔力融合を使い、拳を光らせる。


 そして、例のポーズを取り、深呼吸した。



 身体強化、魔力融合が合わさった俺の必殺技。


「キエエエエエエエッ!」

 

 やつは断末魔をあげる。


 そして俺が発した熱によって散って行った。


 だけど、雪はまだ降っている。


 俺は天を仰いだ。


 数えきれないほどのドローンが俺を撮影していて、特殊部隊員らが口をぽかんと開けながら俺を見つめている。


 そういえば、10人くらいいたんだよな。


 邪魔したら荒波みたいに蹴り上げようと思っていたが、静観するという賢い選択をとったことで、特殊部隊員らは無事のようだ。

 

 その瞬間、


「ふふふ、やっぱり君はすごい」

「っ!?誰だ!?」


 俺の目の前に美女が現れた。


 この俺が気付けないなんて。


 気配を消したのか。

 

 だとしたら、相当なやり手だ。


 長い金髪、引っ付いた紺色のズボン、胸のところがはだけたワイシャツ、高い身長、整った目鼻立ち、赤い瞳。


 早苗さんに匹敵するほどの美貌だ。


 彼女は穴が開くほど俺の瞳を見つめ、涎を垂らした。


「ん……君の全てが欲しいわ」

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