第31話 プライド

 キングアイスドラゴン。


 名前からでもわかるように、やつは氷属性を持つモンスターだ。


 SSランクの奥深いところに生息しているため、あまり研究されてないらしい。


 俺はやつを数えきれないほど倒してきた。


 だけど、状況が全然違う。


 場所は浅草だ。


 日本における最も有名な観光スポットの一つで、凄まじい流動人口を誇る。


 ちょっとしたミスでも、多くの人が被害を被る可能性があるのだ。


「魔力ブースト」


 と唱えた俺は、ジャンプをして建物の屋上を利用し浅草へと向かった。


 ここは荻窪。


 音速を突破すると、風が痛いので防御幕を張ってひたすら走る。


 1分もかからずに俺は浅草駅に到着することができた。


 雷門近くにやつの姿が見える。


 20メートルは悠に超える巨体に、白い鱗に覆われた丈夫な感じの体。


 氷柱のようなツノが2本生えていて、口からは全てを凍らせられるような冷たい息が出ている。


 警察と自衛隊は市民たちを避難させていて、すでに日本ダンジョン協会管轄特殊部隊たちが応戦している。


 戦闘は始まったばかりのようだ。


「あはは!これって生中継されてるんだよな〜俺様の強さを日本中に届けようぜ!」

「ふふ、伝説の拳とやらが出しゃばったおかげで、私たちの出る幕はなかったもんな!」


 特殊部隊と思しき男女の声が聞こえた。


 二人とも金髪で、実にパリピのような見た目しておる。


「おい!荒波!霧島!あのモンスターはお前たちでなんとかできる相手じゃないんだ!」


 と、聞き覚えのある人が喋ったので、その人に視線を向けたら、


「渡辺さん……」


 以前キングゴーレムの件の時に協力したことのある渡辺さんだ。


 霧島と荒波という男女はそんな渡辺さんに見下すような視線を向けてきた。


「なんの役にも立たないよわっちいクソは引っ込んでろ。年だけ取った無能おじさんがああ!!」

「荒波……」


 男の態度に渡辺さん彼を睨む。


 そしたら、女の人も男(荒波)に同調した。


「そうね。キングゴーレムのとき、あのでんこクソやろうに助けられっぱなしだったから、我々日本ダンジョン協会管轄特殊部隊の評判が駄々下がりだろ!」

「霧島……」


 渡辺さんは悔しそうに歯噛みする。


「我々の本文は市民を守ることだ!キングアイスドラゴンはどれほど強いのか、なんのスキルを持っているのか、まだ明らかになってない。だから戦闘はやめて、やつをSSランクのダンジョンに戻しておくべきだ」


 渡辺さんの言葉に、彼の指揮下にある四人の男女も頷く。


 だが、渡辺さんを見下す二人の男女は口角を吊り上げて、彼ら彼女らを嘲笑う。


「だからおじさんはダメなんだよな。年功序列ってのも馬鹿げたシステムだぜ。こんな無能が指揮官のお前たちも可哀想だわ」

「マジそれな!あんな無能力者の配信者に救われるのがいいのか?おい、おじさん、あんたはプライドってもんがねーのかよ!」

 

 女の人(霧島)に問い詰められて、渡辺さんはいいあぐねる。


 そこへ、男の荒波が追い討ちをかける。


「てか、Aランクの分際で俺たちに命令する気?分を弁えろよ。俺たちは日本ダンジョン協会管轄特殊部隊の中でもトップクラスのSランクだけしか入れない精鋭部隊の人だよ。てめえらは敗北者らしくすっこんでろ。足手まといだ!」

 

 やつの言葉はドがすぎている。


 先日のキングゴーレムの件において、渡辺さんの判断は的確で正しかった。


 それを自分たちのプライドが傷ついたことで全否定するのか。

 

 荒波という男と霧島という女の人は俺より2歳か3歳くらい年上っぽい。


 さがくんくらいの年齢だろうか。

 

 対して、渡辺さんは40代ほどだ。


 自分が強いだけで、相手の尊厳を踏み躙ることはするべきではない。


 俺は彼ら彼女らの前に立った。


 すると、俺の存在に気がついた特殊部隊の人々が目を丸くして驚く。


 うち、荒波が口を開く。


「噂をすれば影がさすってやつか。おい、お前は手出すなよ。俺たちは政府の要請によって、あのキングアイスドラゴンと戦うことが義務付けられてんだ。つまり、お前の出る幕はない。お前はなんの資格もないんだ」

「……」


 続けて、霧島が言う。


「そうね。所詮ライブ配信して、金稼ぐためにやってるようなもんだろ?中卒無能力者はそれくらいしか働き口がないもんね。ふふふ」

「……」


 俺は奴らから視線を外した。


 渡辺さんと彼の配下の四人が俺を見ている。


 まるで、重罪を犯した罪人のような表情をしている。

  

 別に俺のことを悪くいうのは構わない。


 だけど、困っている渡辺さんを見ていると、なぜか心が熱くなった。


 俺はキングアイスドラゴンの方へ視線を向ける。


 他の特殊部隊らがドラゴンと戦闘をしており、建物の一部が損壊している。

 

 俺に資格がないんだと?


 俺には守らないといけない人がいる。


 理恵と躑躅家の三人だ。


 奴らの実力じゃキングアイスドラゴンに勝てない。


 キングアイスドラゴンはSSランクのモンスターの中でも相当強い方だ。


 いくらSランクの探索者が束になってかかっても、被害が出る一方だ。


 理恵と友梨姉と奈々と早苗さんが住んでいるこの日本を守るんだ


 俺は淡々と事実だけを告げる。


「ここにいる特殊部隊員が全員かかっても、キングアイスドラゴンに傷ひとつ与えられないから、お前たちこそ

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る