第19話 スパチャ

数日後


 キングゴーレムが荻窪駅に現れた事件は日本中を震撼させた。


 本来、ダンジョンに住むモンスターが外に出ることはない。

 

 だが、あれは確かにキングゴーレムだった。


 なんであんな凶暴なモンスターが現れたんだろう。


 そんな疑問を抱いていたら、能力者からなるテロ組織から犯行声明があった。


 彼らの発言を要約すると、お金持ちで良い学校を出てる能力者から構成された日本ダンジョン協会と支配構造に問題があるとのことだ。


 金持ちや良い学校を出た能力者はいいパーティーに加入することができたり、お金になりお得な依頼が独占できたりするらしい。


 恵まれてない能力者は反社会勢力と化しこの世に悪い影響を与える。


 俺も存在自体は知っていたが、キングゴーレムを連れてくる大胆なことをしてくるとは思いもしなかった。


 幸いなことに市民の被害は少なく済んだ。


 軽傷を負った人が10人ほど。


「……」


 妹に朝ご飯を食わせて送った俺、腕を組んで考え考えしている。


 理由は二つ。


「ったく……奈々のやつ、言いふらしやがって……」


 奈々はこの前起きた事件を事細かに説明する動画をあげた。


『でんこ様、マジ格好いいんでよね!あのキングゴーレムを簡単に倒したなんて……私もあの時、お姉ちゃんと一緒に人を助けたら、でんこ様の活躍見れたのに……』


 奈々は元々こういう性格してるから、怪しまれることはないけど、お陰様で俺のチャンネルの動画にすごい量のコメントが書かれてるぜ……


『ゆう様!いつライブするんですか?』

『キングゴーレムを倒した話、詳しく聞かせて!』

『ゆり様とワクワク展開あり?』

『お陰様で多くの人たちが助かった!伝説の拳様、早くライブやって( ´∀`)』


 あと、俺が考え考えする理由のもう一つは。


『収益化の申請が通りました』


「……」


 やっとかという感はあるけど、ちょっと心配になってきた。


 だって、平均視聴者ゼロ、たまに一だった頃と比べて、今は知名度がめちゃくちゃ上がっている。


 ライブを始めたらどれくらい入ってくるんだろう。


「いや祐介、自惚れんな。なんの面白みもないやつのライブなんか……」


 と呟いてから俺はスマホを弄る。


『収益化申請通ったので、試しに配信します』


 というタイトルを入力して、俺はライブ開始ボタンを押したら。


 数秒が経つ。


「ふっ、ほら見たことか、やっぱり入んないだろ」


 と、名残惜しさと安心感が混じったため息を吐くと、


 人たちが入ってきた。


 10人、50人、100人。


「おお、入ってきてる」


 うん。


 100人も入ってくるなんて、nowtuberとして本当に光栄だ。


 と、嬉しさのあまりに口角を釣り上げていると


 人たちがもっと入ってくる。


 1000人、5000人、12000人


「……」


 10万人、30万人、100万人


「バグってんじゃないかな」


 と、呟いていると


 俺の疑問をぶち壊す凄じい量のコメントが流れてくる。


『ライブだああああ!!』

『いよいよ!!!!!』

『でんこしゃま』

『ワイ感激』

『待ってました!!』


 目で追う事もできないほどのスピードで更新されてゆく光景を目の当たりにした俺は口をポカンと開ける。


 いかん!ここで戸惑ったらだめだ。


 視聴者たちが出ていってしまう。


 俺は浮遊魔法でスマホを浮かせ、自分の顔を映しながら言う。


「あ、あの……みなさんおはようございます」


 すると、さっそく視聴者たちが反応してくれた。


『おはよう😃』

『おはようございます^^』

『でんこ様、おはようございます!』


……


 おお、


 こんなに多くの人たちが反応してくれるなんて、とてもおかしな気分だ。


 今、俺は倒れる寸前のアパートの部屋で一人きりだが、100万人を超える人たちが俺を見ていると言うことだろう。


 ちょっとでも変なことを言ってしまえば炎上して全てが台無しだ。


 炎上騒ぎで派手に散った配信者は数え知れず。


 とりあえず、無難なセリフで視聴者たちとやりとりをしようではないか。


 そんなことを思っていると、



 誰かがスパチャを投げてきた。


『名無しさんが100万円を投げました』


「100万!?」


 またバグってないかと疑ってみたけど、目を擦っても100万という数字は変わらない。


 スパチャのメッセージも


『名無しさんからのメッセージ:友梨さんと奈々ちゃんとはどういう関係ですか?もしかして誰かと付き合ったりしてません?付き合ってないならあなたはどういう関係を望みますか?』


 早速難関問題を投げてきた。

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