53話

「ウトゥ」


「如何したのだ」


「ちょっと商売の話がしたくってー」


「珍しいな、どのやうな分野の商いか、話を聞こう」


ウトゥは執務室で急に翔颯かけはやてに声を掛けられたが、当然気に障る事態では無いので即反応。

した上で翔颯を膝の上に座らせた。

翔颯は座りたいとは思ったが、仕事の邪魔はしたくなかった。

でもウトゥが座らせてくれたから話は違う。

るんるんで居座って甘えておしゃべりしよーって、身を預けた。


「あのさ、券を、売りたいんよねー」


「券?」


「うん、手を繋ぐ券」


「…」


「一緒に散歩する券」


「…かけ、はやて」


「それからー…あーんする券とか…これって需要あるかな」


どう、どう?って翔颯はウトゥを見上げた。

ウトゥは、ものすごく真剣な表情を浮かべていた。


「ある。大いにある。1枚如何ほどで購入出来るのだ」


「えっとーぉ、1枚1キスなんですけどー後払いでーよくってーぇ」


「有るだけ是非頂きたい…今は何が在るのだ?すぐに購入させておくれ」


凄い食い気味で問われた翔颯は、作った券をポケットから出して確認する。


「えーと…さきっきいったやつとー…一緒にお風呂に入る券、背中を流す券、頭を洗う券…他にも色々作ろうとおもっててー…わっ」


翔颯は驚いた。

取り出した券全部ウトゥに取られてしまったからだ。

まあ全部あげる、いや売るつもりだから良いけれども。

思っていた以上の反応に翔颯は喜びが全身から溢れ出てしまう。


「其の商才に此方は震撼するばかりぞ…はぁ…これより全て、全て此方に卸して頂けませぬか?」


うっとりとした表情で券と自分を見つめるウトゥに、翔颯はにっふにっふ笑み浮かべつつ、頬を朱に染めた。


「…お手伝い券とか…肩たたき券とか…作ってみたかったんだぁー…ありがと、ウトゥ…付き合ってくれて…」


こんな子供の遊びに付き合ってくれて、本当に嬉しい。

だからもう演技はいいよ、って翔颯は言おうとした。

所がウトゥはそれはもう真剣な御様子で、


「生産体制は整っておるのか?手書きをスタンプにして如何だ。紙も切る手間を省くべく名刺サイズの物を…ああ、いっそ印刷会社を立ち上げて」


そうぐいぐい迫られる。


「ウトゥ、ウトゥ、いっぱい手書きで作るから止まってくれ」

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