34話

また通路に出て歩くのだろうから今度こそおしゃべりしたい。

翔颯かけはやてはあのさーって、ウトゥの肩に頬を乗せた。


「目を、瞑れ」


なのに命令されてしまう。

瞑らない以外認めない、というのが金の視線から伝わってくる。


「なんでー?」


けれど翔颯は素直に瞑らない。

杖化け物に口答えだなんて末恐ろしき、なんだけども翔颯は違った。

だって、家の事、聞きたいしおしゃべりしたかったんだもん。


「…」


「…」


けれど金の双眸が無言で強く睨んでくるから、翔颯はしぶしぶ従った。

怖かったからじゃない、そうしないと話が進まないって察したからである。

だから納得はしていない。

ので頭で頭を小突く攻撃を試みる。

ふふって聞こえた。

なに笑ってんだよーと思った瞬間、それらすべてがいきなり低い鐘の音でかき消されてしまう。

ごおおおんと低い低い、大きな大きな鳴り響き。

翔颯は驚きの声を上げたつもりだったが、空気をびりびり振動させる音に飲み込まれよく分かんない。


「着いたぞ」


いつまでも続いて欲しくない鳴り響きは、ウトゥの一言で消えた。

静まり返ったけれども、耳がおかしくなっててやっぱり翔颯にはよく分かんない。

ぎゅうっと瞑った瞼の隙間が濡れた。

でもなんでか開けられない。

なにせ耳からくる大混乱に飲まれているから。

まだ耳の奥、あるとされてるうずまき部分が変な感じがしている。

翔颯は縋るようにウトゥに抱き付いた。


「落ち着け」


「む、ひ」


二文字の内半分噛んでしまったが、ウトゥには伝わり労わるように頭を撫でられる。

それは余計にしがみつきを強化させる効果もたらして、ウトゥは瞠目した。


「翔颯、離しておくれ」


「や、じゃ」


どうしても語尾が二文字目がおかしくなってしまう翔颯は、従えぬと叛逆する。

だって離れたくない。

背中の筋肉まで使ってウトゥをきつく抱擁した。

そもそも何故離れようとするのかがわからない。

こちらはおそらく杖化け物が原因のおっきな音の所為で吃驚したのだ責任取れ。

そして説明して。

じゃなきゃ離れないし、目も開けないと、翔颯は無言の抗議に出たのだ。


それなのにウトゥは翔颯の背中に手を添え、上半身を屈ませる。

何処かに寝転がらせる魂胆を見抜いた翔颯はさらなる抵抗、抱き締めた。


「まったく…」


その呟きは杖化け物という存在が人間に呆れたような、そんなような感情が込められていた。


「翔颯」


けれど次に紡がれた言葉は、優しさ以外含まれていなかった。

不和とは真逆な響き。

なんだか鼻の周りが熱くなった翔颯のこめかみを、柔らかなものが触れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る