孤独なおとし子、杖化け物と遭遇す
狐照
1話
アルバイトからの帰宅途中、橋を渡ろうとした
渡ろうとした橋は昨今の都心水害を防止するためにこの間まで工事中。
本当に完成するのか甚だ疑問の年月を経て経て。
つい最近完成したばっかり。
だから何もかもが新しい。
そこそこ交通量の多い道路沿いに出来た河川工事の結晶だ。
朝や昼に見るかぎり、その下の川はあってないような物で、銀色の手摺もなんだか意味があるのかどうか分からない状態だった。
それでも水害は恐ろしいから備えあれば憂い無し、という事なんだろう。
何億もかけて行った工事が成功なのかどうかは、未だ振らない豪雨に掛かっていた。
そんな事情は翔颯には関係無い。
関係は無いが工事ようやく終わって通りやすくなったなって感想を一瞬だけ抱かれた新品の橋、銀色の手摺にそれは立て掛けてあった。
別に珍しい物ではない。
こだわらなければ1000円くらいで購入可能な代物だ。
最近はなんと、100均でも買えるらしい。
けれど今、翔颯が目にしている物はとてもじゃないがその辺で売っているような安物ではなかった。
それは杖だった。
秋口の有限なるトワイライト過ぎた夜な時間、闇に呑まれず己は杖だとはっきり主張していた。
ぽつぽつ並ぶ街灯の白い光を吸い込むのではなく自ら輝いている。
黄金に。
金色に、その杖は輝いていた。
輝いていたと言っても下品さは無く、なんだか崇高な神々しい金色で。
その杖が放つ異様な存在感に目を奪われた人は、多かったに違いない。
触ってみたい衝動も起きたに相違ない。
当然疚しい気持ちを抱いた盗人も居ただろう。
けれど持ち主が容易に想像出来たから、出来るから、誰も彼もが触れず放置を決め込んだのだろう。
無事にここに在るのがその証拠。
翔颯もすぐに見なかったフリをしようと思った。
気味の悪い物、触らぬ神に祟り無しとはこの事だ、と。
見なかった事に、と。
だけど、目が離せない。
けれど、足が進まない。
どうしても、動けない。
だってだって、この杖の持ち主は何処でどうしているのか。
それが翔颯は気になって気になって、仕方が無かった。
そう思ってしまった翔颯は、そこから杞憂を胸中ひとりごち。
手摺に立て掛けられているという事は?
それは、ちょっと、足元が落ち着かない発想がすぐ脳裏をよぎる。
まさかそんなでも。
辺りを見回す。
なんてこったい誰も居ない。
持ち主らしき人影も無い。
翔颯はぐっと口をへの字に曲げた。
関わってはいけない。
そんなの子供でも知っている。
でもでも。
息を吸ってゆっくり吐く。
諦めの深呼吸ではない。
この杖の持ち主が想定できる人外だからと言って見捨てる事こそ、ひとでなし。
そればっかりはごめんだ。
うん、ごめんだ。
翔颯はブレザーが汚れるのも構わず手摺から身を乗り出し、暗い橋の下を覗き込んだ。
事故か何か手違いで、落ちてしまったのでは無いかと、翔颯は考えてた。
誤って落下して、怪我をして動けないのかもしれない。
大した高さじゃなかったとしても、人外でもそうなら見過ごせない。
それが自分の性分だ。
だから良い。
迷惑を掛ける家族も居ない、どうせ孤独の身だ。
うん、そう、孤独だった。
やになるほどに。
右も左も前後も左右もまさに四面楚歌の如く独りな事を翔颯は再確認してしまう。
だからなんだか少し気楽になって「おーい、誰かそこに居るー?」真っ暗な底へと声を掛けた。
まさに正気の沙汰ではない。
どんな災厄が降りかかるのか分かったもんじゃないってのに「おーい、大丈夫ー?」おそらく居るであろう杖化け物に言葉を投げ掛ける。
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