5話

杖綺麗だよなって素直な感想を伝えよう、そう思ったらなんだか杖化け物から反応が無い。


「…」


妙な沈黙に、翔颯かけはやては「あっ」って慌てた。


「触ってない!みただけ!きれーだったから!」


「…分かっておる」


「昨日の、あれ、しないで!」


「あれとは?」


「帰れってやつ、帰れって言ったやつ、あれやだ納得いかなすぎた、何あれー」


「ふ、ふふ…そうであったか…」


「そ、そうであったかじゃ、ねぇもん」


笑った?

うん、笑った。

杖化け物が、笑った。

翔颯もつられて笑みを浮かべてしまう。

こんなに楽しいのはじめてだ。

相手が杖化け物だなんても、どうでもよくって、翔颯は思ったままにしゃべり続ける。


「あれってさー、俺に何したのー?」


「…」


「ん?にーさん?どしたのー?」


急に返事が無くなって、居なくなったのかなと思った。

けれど綺麗な黄金の杖、翔颯の傍らに。

手摺に寄り掛かりて轟々ぼうぼう、不可思議に輝いてる。


「まさかと思うが」


「あ、居た」


「おるわ」


「うん、で?なにー?」


どことなく信じられないといった口調だった。

何か確認したい空気漂う。

翔颯は自分に聞かれて分かる事をなんだろか、とちょっと心配になる。


「此方と対話を?」


「え、うん、駄目だった?」


まさか、といった様子に対して、そんな事?って気分で翔颯は問い返す。

嫌なら止めるけど。

出来ればも少し、構って欲しい。

うん、そう。

構って欲しい、から。


「だめ…?」


もっかい聞いてしまう。

駄目って言って欲しくないと、願いを込めて。


ふう、と溜息が聞こえた。

これはどういう気持ちのやつなのか。

翔颯は念押し、したくて口を。


「…寝物語を聞かぬ間に寝る子…か…」


開けたけど、即生じた疑問を聞いてしまう。


「ねものだがたりってなにー?」


「眠る前に、絵本等を読み聞かせをする事だ」


「へぇー俺そっこー寝るしなー…」


してくれるひとも居ないしなー、というのは言えなかった。

杖化け物に言った所で、どうにもならないし、どうでもいい事だろうし。


「うむ、それは想像出来るな」


「にーさんは寝るの?」


「人間の定義に当てはまる休息…休むぞ」


「そなんだ!ごはんは食べる?」


「此方はあまり好まぬが…まぁ食えぬ事も無い」


「にーさんはさーからあげ好き?俺はねー…あ、だからあれってなんだったの?」


翔颯は脱線していた事に気付き、訊ね直した。

いや好物が何か気になるが、それより気になるあれの正体が知りたい。


「…言霊だ」


「ことだま?」


漢字すら思い浮かばない、馴染みの無い単語だった。

翔颯の理解力に慣れてきたのか「力有る言葉、だ」「ことばにちからかーそれってにーさんが、あれだから?」「うむ、そうだ」「そうなんだー」杖化け物は易しい言葉で教えてくれて、翔颯はにっこにっこしてしまう。

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