24話
自分の足で移動しない不思議な後ろ歩きの世界。
見慣れている筈の校舎なんだけど、こういう視界だとすごく他所の施設に見えてくる。
そう、翔颯は杖化け物にお姫様抱っこされているのだ。
それなりに成長している健康的な男子高校生である翔颯を、杖化け物は軽々運んでく。
そんな杖化け物と翔颯は話したい事一杯あって、一杯おしゃべりしたかった。
けれど生まれて初めてのお姫様抱っこに、翔颯は浮かれ感動し言葉を失っていた。
大事な大事な宝物みたいな扱い。
苦痛も不安も感じさせない力加減と安心感。
何よりも、温もりが、杖化け物の体温が翔颯を蕩かした。
だから杖化け物の肩に顎乗せ身を預け、揺れる世界を見続けるの。
ふいに変化が訪れる。
さっきまで杖化け物が歩いていたのは、翔颯が知ってる景色学び舎だった。
それが、じんわり、じわじわ、今は、灰色の無機質な通路に様変わり。
天井からぶら下がっているのはシャンデリア?そしてあれは蝋燭か?
翔颯が知っている蝋燭の光量では無い物が、蝋燭によく似た形で火の揺らめき明るく大輪のような黒いシャンデリアの造形美知らしめるべくに幾本数本刺さってる。
壁に窓はない。
その代り丸の中に星が入った紋様と、波の紋様が壁に刻まれ薄く金色に光ってる。
床も灰色、多分石っぽい。
少しだけひんやりしているのが、杖化け物が温かいから分かる。
ほとんど無音。
杖化け物規則正しい足音だけ響く。
凄いな歩くの早いな。
学び舎から一歩も出ずにまったく見知らぬ、恐らく危険な場所に連れて来られた翔颯。
杖化け物の力の発端をまざまざ見せつけられてる翔颯。
なのに翔颯。
も怖いなんてこれっぽっちも感じなくって、杖化け物を横目で見る。
なんてこったい吃驚した。
耳の造作まで綺麗だった。
耳朶からぶら下がる宝石の耳飾りも綺麗だが、それより褐色の横顔の方が綺麗だ。
人外の妖しいまでの美ってもんを改めて見せつけられた翔颯は、ふすーっと興奮の息を吐いていまった。
「如何した」
「んーんー、と、ここどこ?」
見惚れて興奮した、というのを誤魔化す為に疑問を口にする。
その声はふわっふわだったが、本人はしゃっきりしているつもりだ。
そもそも、荒い息を首筋に受けた杖化け物に見惚れて興奮、バレてないとも思っている。
「…此処は此方の領域、今は此方の住まいへ向かっておる」
「すまい…それって家?家だよな?」
「否、滞在している宿泊施設だ」
「…家、じゃねぇんだー…」
住まいと聞いて表情を明るくさせていた翔颯はしょんぼり、杖化け物の肩に顔を埋めた。
「…何ぞ文句でも?」
「ねーでーす」
「…」
何か、言いたげな気配が伝わって来る。
けど、翔颯は肩に顔をぐりぐり押し付ける。
良い匂いがした。
鼻を肩につけフスフス、すごい良い匂い。
ふふって聞こえた。
少し前の翔颯だったら、何笑ってんだよーと言えた。
今は言えない。
正確には本当に残念でならない気持ちがいっぱいで、泣きそうだからだ。
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