怠惰な陰キャ、やっと落ち着く
これにてすべての決着がついた。
魔神フェグニアは絶命し、あたりをうろついていた魔物も沈静化し、両者ともに再び襲ってくる気配はない。
もちろん、諸々の課題は残っているけどな。
俺がまだすべての記憶を取り戻したわけではないこと、大魔神が地球侵略を目論んでいること、そして他にも強大な力を持つ魔神が五柱もいること……。
問題は山積みの状態だが、ひとまずは一件落着と言って差し支えないだろう。
前述の通り、魔神フェグニアが得意としていたのは幻術。
その幻術を仕掛けていた当事者が死んだわけだから、警察や暴力団の暴走も直におさまるだろう。史上稀に見る大事件だったゆえに、しばらくは混乱が続くだろうけどな。
しかしまあ、今それを考えるのは野暮というものだろう。
魔神フェグニアは死に、そして事件はいったんの決着をみた。
とりあえずはそれで平和が戻るのだから。
「くっ…………!」
俺は呻き声をあげつつ、地面に片膝をつく。
いくら自分自身の力とはいえ、人間の身体で急に〝魔神の力〟を使ったわけだしな。ガタがきてもまったくおかしくないだろう。
「れ、怜君……!」
そしてそんな俺へ真っ先に駆けつけてきたのは、やはり佐倉詩織だった。
彼女は俺に勢いよく抱き着きながら、滂沱の涙とともに言葉を紡ぐ。
「お疲れ様……! 本当に、ほんとによかったよ……!」
「はは……、そんなに抱き着くなよ……」
「無理だよ。だって私、怜君がいないと何もできないんだから……!」
詩織は本当に相変わらずだよな。
こんな俺なんかをずっと気にかけて、俺が魔神化しても立ち向かってきて、今でもこうして抱き着いてきて……。
まったく変な女だ。そしてそんな彼女が傍にいたからこそ――俺も救われた。
ちなみに現在は配信を切っているらしい。
今回のことは極力知られたくなかったが、まあ、事態が事態だからな。
さすがに致し方ないか。
「ははは……。怜様、俺からもお疲れ様でした」
そしてそう声をかけてきたのは、神須山組の幹部――刃馬力也。
「まさか組の問題から、こんな大事に発展するとは……。おそらく当面は混乱が避けられないでしょうが、うまいことやっておきますよ」
「は……、そっちは任せたぞ。元より組のことは関与してねえからな」
「ええ。かしこまりました」
「――やれやれ、その観点で言えば私も忙しくなりそうだ」
そして次に言葉を発したのは、事務次官の飯島慎二だ。
「政府専用ダンジョンが世界中に知られただけでなく、警察と暴力団の結託や、さらには大魔神の存在……。しばらくは休まりそうにないねぇ」
「あ……、それはえっと、すみませんでした」
飯島の言葉を受けて、詩織がぺこりと頭を下げる。
ここ政府専用ダンジョンは、元より飯島から〝配信禁止〟と釘を刺されていたからな。
仕方なかったとはいえ、今回の配信によって、政府にとって厄介な情報が知れ渡ってしまったのは否めない。
「いやいや、いいんだよ」
詩織の謝罪に対し、しかし飯島はにっこりと笑うのみ。
「詩織くんが機転を利かせてくれなければ、今ごろ日本はよりひどい結末を迎えていただろう。それを感謝こそすれ、恨むことはないよ」
「はい……。そう言ってくれるとありがたいんですが……」
と。
リリリリリリリリリリリリリリ……!
と甲高い音を立てて、飯島のスマホが鳴った。
「む、大臣からか……。すまない、少々待っていてくれたまえ」
飯島はそう断ると、やや俺たちに距離を取ってから通話に出た。
「もしもし、飯島です。はい、はい、配信されていた通り、先ほど諸悪の根源を倒しました。ええ、ええ……。…………な、なんですと⁉」
いったいどうしたことだろう。
先ほどまで冷静に通話していた飯島が、急に大声を発した。
「わ、わかりました。ひとまずは調査から入らせていただきます。ええ、ええ……。はい、それでは失礼致します」
いったい何事だろうか。
飯島は得心のいかない表情を浮かべたまま、俺たちのもとへ戻ってきた。
「君たち……驚かないで聞いてくれたまえ」
そしてこう前置きをしたあと、なんとも信じられぬ発言をしたのである。
「あくまで予測でしかないが、警察と暴力団の襲撃から始まり、そこからレンディアスダンジョンでの配信に至るまで……。今回の事件について、国民たちの記憶が失われた可能性がある。――詳細はわからないまでも、怜君や詩織君が、なにかしらの巨悪を討ったとだけ周知されている形でね」
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世界で唯一レベルカンストしている怠惰な陰キャ、ダンジョン配信を切り忘れた有名配信者を助けたら、うっかりバズってしまう どまどま @domadoma
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