第32話:救われた愛、歪んだ世界②・

 しばらくすると、不木崎が目を覚ました。

 視点が定まって無く、目を細めている。


「あ、あれ…城…?」

「春、でしょ、ふっきー。おはよう」

「…ん?何この柔らかいの……太ももぉ!!」


 不木崎がその場から飛び起きる。

 滅茶苦茶距離を取られた。そんなに離れなくてもいいじゃん。


「……俺、確か……あ」

 何かに気づいた様子の不木崎。


 あ…また汗が流れだした。

 体を念入りにチェックし始め、異常がないことを確認できたのか、安堵の息を吐いている。失礼な奴だ。


 居住まいを正して、不木崎が揉み手をしながら申し訳なさそうな顔で近づく。


「あのぉ、さっきのことなんだけど……そのぉ…おっぱい触った件について……」


 ……あれ?


 なんだか知らないけど私のおっぱいを触ったことについて罪悪感を抱いてない?こんな粗末なものを触ってもらってありがとうございますって感じなんだけど……。

 本当に不木崎は変な男の子だ。どう考えても私の方が通報案件だよね……まあ、その罪の意識は私のおっぱいに怖がられない程度に利用させてもらおう。


「そんなことより、いくつか聞きたいんだけど」

「そんなこと……?」


 私は立ち上がり、着ていたエプロンを脱ぐ。体はまだ雨に濡れた影響で制服が肌に張り付き、下着が透けていた。


「前もこんな風にしたんだけど、その時は?興奮した?」

「………はい。しました」


 私は次にタイツを脱いで、ベンチへ置く。そのままスカートをつまんで太ももまで持ち上げ、不木崎に見せた。


「足もこんな感じで見せてたけど、これは?興奮した?」

「………はい。しました」


 不木崎の視線は私の体に釘付けだ。

 お腹のあたりから湧き出る興奮を感じながら、不木崎の瞳を見つめる。

 もっと見て欲しい。もっと不木崎の言葉が欲しい。

 

「私のどんなところが……可愛い?エッチ?全部言って」

「えっと、それ、絶対言わなきゃダメですか…?」

「ダメ。全部言って」


 そう言うと、不木崎は恥ずかしそうに目線を逸らす。


「はい…………まず、肌。どこかしこも白くてすべすべで傷一つなくて、正直めっちゃ擦りたい。あと、顔はハーフみたいに整ってて、まつ毛もやべーくらい長くて、目もなんかエメラルドグリーンで見てたら吸い込まれそうになるし、髪の毛も妖精みたいにふわふわしてて、めっちゃもふりたい。身長低いくせにやたらおっぱい大きくて、触ったらやっぱり柔らかくて、一生触ってたいな、思うくらいには気持ちよかった。でも、一番は一緒にいて気が楽というか、全然下心隠せてないくせに頑張ってるところが可愛いというか……ああ…死んでしまいたいっ……」

「死んじゃダメ」


 冷えた体がまた火照っていく。ためらいがちに言う不木崎から目が離せない。

 心臓が爆発しそうなくらい高鳴って、快感で頭がクラクラする。

 もっと……全部、聞かせて欲しい。


「お弁当は?迷惑だった?」

「……いえ、すっごく美味しかったです」

「間接キスは?」

「……え?間接キス?…そんなのあったか…?」

「なるほど」


 やはり、私が作戦として行ったことは全て不木崎に刺さっていたようだった。

 間接キスはガチで気づいていないのは腹が立つ。


「ふっきーの、その…心の反応?は良くなってきてるの?」

「うーん、最初に比べたら大分マシになったな。女性見ただけで気絶してたくらいだし」


 改善している、ということは、やはり訓練次第でどうにかなりそうだ。

 よし。ならどうにかなる。どうにかする。

 不木崎は、先ほどの行動を振り返っているのか、顔を赤くしたり青くしたり忙しそうだ。私の心や体がデロデロになるくらいにすごくカッコよかったのに、何を照れてるんだろうか。

 あ、このことも言っておかないと。


「あと、私振られても死んだりしないし、池田華みたいにならないから」

「……そうなの?」

「でも振られても絶対に諦めないし、なんなら体にわからせる」

「悪化してる……!」

「…ふふ、冗談だよ。でも、本当にもう大丈夫だから、私に怯えないで。ふっきー」

「……わかったよ」


 うん。好きだ。この人を絶対に逃がさない。

 私はベンチに置いた服を回収して、手を突き出す。不木崎はその手をなんだろうか、と眺めている。


「じゃ、まずは手を繋ぐところから頑張ろっか」

「え?……い、いやいや城さん。ちょっと性急すぎるっていうか…順序が欲しいっていうか、さっき気絶したばかりというか」


 ダメ。さっき呼んだみたいに呼んで。


「さっき春って呼んだ」

「あ、あれはその場の勢いというか…魔法の言葉というか…」

「さっき春って呼んだ」

「あれ?俺この流れ知ってるぞ?」


 不木崎は仕方なしそうに、項垂れる。

 今、私かなりキてるから、そんな顔されたら押し倒すよ…?


「わかったよ春。これでいいだろう。マスターも待ってるし、戻ろう」

「手」

「いや、だから―」

「おっぱい触った」

「ちょっとした我慢くらい男の子ならへーきへーき!ほら、手、つなごっか」


 私は笑って、差し出された不木崎の手を握りしめる。


「ふっきー。追いかけてきてくれて、ありがとう。すっごいカッコよかったよ!」


 そして、もっと大好きになったよ。


「え?あ……うん」


 少し青い顔をしているが、何とか堪えているようだ。

 後でおっぱいもちょっと当ててやろう。


 不木崎の冷たい体温を感じながら、歩き出す。

 いつの間にか雨は止んで、空には虹がかかっていた。




挿絵 第32話:救われた愛、歪んだ世界② 全部、聞かせて

https://kakuyomu.jp/users/hirame_kin/news/16817330662757814898




――――――――――――――――――――――――――――――――



第一章はここまでです。

最後に明日、蛇足のエピソードを挟んで二章に突入となります。

次章は不木崎の過去のトラウマを克服するエピソードになります。


 少々自分語りをお許しください。

 毎回応援してくれる方、★レビューやコメントをしてくれる方のおかげでここまで頑張れました。最初は、好きに書こう程度に思ってましたが、人間(私)とは欲深く…なんだかんだ応援してくれる方々がモチベーションになってます…。

本当にありがとうございます。

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