第2話:男の子のキモチ・

side.不木崎ふきざき拓人たくと

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 授業が終わった直後ノートを整理していると、背後から気配を感じた。

ほんのり伝わる熱と甘い香りから女子というのがわかる。…そして、おそらくデカい。


 正直、とてもキツイ。


 なんとも言えないのだが、女子が近くにいて嬉しいという興奮が半分、ほんのり伝わる熱が……女子が近くにいるという事実が不快で一刻も早く離れたいという気持ちが半分と、天国と地獄を両方体験しているような感じだ。


 前世の頃から距離感の近い人は苦手であったが、2か月前にこの世界に転生してきてそれが超加速していた。

 恐らくは、この世界の不木崎くん元の体の持ち主の女子嫌いの感覚が心と体に残っているのかもしれない。またはトラウマのような何か…。

 俺の体は興奮しているのにも関わらず、不木崎くんの心が悲鳴をあげているのだ。

 この世界に転生したのは何かの罰なのだろうか…。


 目線を移動させ、驚愕する。やはりデカい!

 顔も確認して同じクラスの城というのは認識できたが、まるで引力が働いてるかのようにおっぱいに視線が収束する。遠目で見ても大きいと思ったが、近くで見るととんでもないなこいつ。

 顔面偏差値も前世では考えれないくらい高い。こんなのが一般の高校にいていいの…?


「なんの用だ」

絞り出すように言った。


 …声裏返ってないかな。学校では結構クールな不木崎くんで通ってるから、あまりイメージを崩したくない。

 今まで告白をしてくる女子は大量にいたが、何故かこうして普通に話しかけてくる女子はいなかった。なので、めちゃくちゃ緊張もしている。


「うーん、特に」


 用はないらしい。え、じゃあ、何?告白するんじゃないの?


 上を向いて指を顎に当て答える城。クソっ……こいつ可愛いし胸でかいな……!ふざけんなよ!体の反応と心の反応でこちとら頭おかしくなりそうだというのに……!


「勉強の邪魔なんだが」

「えー別に私何もしてないじゃーん」


 してるんだよ!俺の頭の中かき回してるのアナタ!

 いや、正直女の子とは付き合いたいしそういうこともしたい。せっかく女子が性に積極的な世界だもの。


 ただ、初対面の人といきなり付き合うというのは前世の自分でもハードルが高い。何なら今までに告白してきた女子ほぼすべてが結婚を前提にしているプロポーズなのだから、ハードルがさらに上がる。まだ高校生だよ……僕ら。


 主に股間がイライラしていると、城が膝に手を当てて胸を腕で包む。まるで生き物のように重量を感じさせるそれは形を変えこちらに夢を与えてくれる。そしてかがんだことにより、さらに近くなった。

 静止している状態でもメガトン級の破壊力だったのに、動かされるとそのまま涅槃へ逝ってしまう。


 精神衛生上良くないので、目をそらす。


「俺は人が近いのが苦手なんだ。男も女も関係なく」


 まぁ、実際この世界の男同士の距離感は近い。普通にハグとかしてくる。最初はぶん殴ろうかと思ったがそれが正常らしい。

 即座に辞めるよう頼んだ。そのせいか男の中で俺はガード高い系男子として囁かれている。


「私は大好きだよ。私たち相性いいね」


……どうかしてるんじゃないの?


「……どうかしてるんじゃないの?」


 いかん、思ったことがそのままでちまった。クールに、クールに…。男子たるもの皮は被らず猫を被らねばならん。

 春休みにこっちの世界へきて、高校に入学して1か月。初めて雑談したクラスの女子は話が通じないらしい。


「てか放課後マックいかない?」

「展開についていけない…」


 本当になんなのこの人……?元の世界で言う、話の通じないギャルというやつだろうか。

 ただ、容姿はギャルというより正統派美少女そのもので、素材の良さを遺憾なく発揮した天然ものである。プラチナブロンドの髪は妖精のようにまるで重力が仕事をしていないふわふわ度合で、エメラルドグリーンの瞳は見てるだけで吸い込まれそうだ。

 身長も低いくせに、おっぱいがやたらとデカく、すっごく股間に悪い子だ。

 しかも、この世界の女子は顔面偏差値が異常に高い。コンビニに行くだけで、あれ、今の芸能人?みたいな野生の美少女が闊歩している世界だ。


 人差し指を立てながら、城は楽しそうに笑う。


「いや、思ったんだけどデリケートな話だし人の目がある場で聞くのはちょっとなって思って」

「それわかるのに何で自分は聞けると思ってるの?」


 そう言う城の視線は、俺の股間に注がれていた。

 見ないように頑張っているようだが、見られていればわかるもんだ。


 この世界の女性は前世界と比べ常識が欠けている。男が勃起しない世界からか、わからせレイプみたいなことをされはしないが、ぶしつけに股間やら胸やらを見てくる。……あれ?俺も同じじゃない?


「……ダメなの?」


 俺が断ると思ったのか少し声が震えている。顔を見ると眉も下がって不安そうだ。


 ……なるほど、勇気振り絞って頑張った感じぃ?可愛いじゃないの?

プロポーズみたいな人生かけてのお願いと違って、単なる放課後デートだ。高校生らしくて健全じゃないの。


 大人の皮を被って見たが、告白すると…めっちゃ行きたい。美少女と放課後マックデートとか最高か?

 ただここでめっちゃ行きたい!みたいな雰囲気を出すと、はしたない!と男子の友達からはぶられる。なんで…?


 なのでここは気を付けて、しょうがねーな感をだしつつ。


「…………気晴らしにいいか」

「ちょっろ」


 本当にそうなんだから言葉に出すのはやめようね?


「おい、聞こえてるぞ。行くの辞めるぞ」

「嘘やん!ふっきー」

「似非関西弁やめろふっきーやめろ」






表紙つくってみました。※AIイラストです。

https://kakuyomu.jp/users/hirame_kin/news/16817330662366852207

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