第318話 選抜本戦 団体戦決着
『さあっ!! もっと私を楽しませて!!』
「くっ!?」
決勝戦は長いラリーによる一進一退の攻防が続いた。お互い意地になってシャトルを落とさないのである。
リーナもスタミナの回復は一時的なものだということは理解している為、スマッシュは打ってこない。その為、レシーブ力に優れる麗とはラリーで競ることになるのだ。
「!?」
そこでついにリーナはスマッシュを打ったのだが、それは今までのスマッシュではなかった。
(カットスマッシュ!?)
切るようにして打つそれは、スマッシュの速度で急激にコースを変えて落ちた。別名クロスファイアと呼ばれる左利きのそれは、誰にも取れない妖精の踊りとして、欧州ではフェアリーダンスと呼ばれ、まさにリーナの必殺ショットであった。
さすがの麗も初めて見る速度と軌道に全く対応することができなかった。武藤はその技術を知ってはいたが、麗達に相手に打ったことはないのである。
(なんなのあれ!? まるで妖精が踊っているように見たことない軌道で飛んでくる!? )
そこからペースを握られリーナペースで試合は進んでいくも麗は懸命に食らいついていく。
そして試合は19-19。既に試合時間は予定を大幅に超えて1時間を超過している。両者のスタミナも限界近くになっていた。
(ここ。私がリーナなら絶対ここでアレを使ってくる。ならやるしかない)
麗は試合をずっと分析してきた。アレはリーナでも打つのが難しい特殊なカットスマッシュだ。そうそう何度も打ってこれないことがわかっている。ならマッチポイントが取れるここで使ってくる可能性は高い。
(ちーはなんて言ってたかな……確か……)
「トランザム」
麗が一言呟くと辺り一面に白い世界が広がった。
(真っ白だ。コートとリーナしか見えない。これがちーが言ってた景色。私も自分の意思で入れた)
今までの速度が嘘のようにシャトルがゆっくりに感じる。
麗はわざとカットスマッシュを打ちやすいようにシャトルをあげた。
『!! 油断したわね!! これで決める!!』
予想通りリーナはフェアリーダンスを打ってきた。完璧に決まったそれは急激な角度で曲がりながら沈み込むが、麗は完璧にそれに反応していた。
『嘘でしょ!?』
今まで誰にも返されたことのなかったフェアリーダンスは、無名な日本の女子高生によって完璧に返された。しかもドロップでコート際に完璧に調整されたそれはまさに芸術的なショットであった。もちろんリーナが反応できるはずもなく、ついに麗がマッチポイントを迎えた。
『負けない、負けない。私は女王。こんな島国で負けるなんて許されない!!』
自分に言い聞かせるようにリーナはブツブツと小声で呟く。
(まだ世界が白い。動けなくなってもいい。このまま最後まで!!)
ゾーン状態を維持したまま麗は最後のサーブを打つ。
(負けない!! 負けない!! 負けるもんか!!)
熱を取り戻した妖精は必死に食い下がる。だが麗は冷徹なまでに完璧なショットで左右に、前後にリーナを揺さぶり続けた。
『あっ!?』
5分以上続いたラリーにリーナは足をもつれさせ、ついにシャトルが浮いた。
『!?』
そこで麗が打ったのは……。
(フェアリーダンス!?)
左右の違いはあれど紛れもなくリーナの必殺ショットであった。
「マッチウォンバイ、中央高校、塩沢さん。10-21,21-18、21-19。中央高校の勝利」
その瞬間、ウオオオオオオという雄叫びと共に会場中が熱狂に包まれた。選抜初出場にして初優勝。しかも連覇中の最強ウルスラを、世界女王を倒しての優勝である。
「っ!? えっ!?」
意識が遠のいていた麗は会場の絶叫にも近い声で意識を取り戻した。
「私……勝ったの……」
『うあああああああああ!!』
対面コートを見るとリーナが、あの世界女王が恥も外聞もなく号泣していた。初めての敗北の結果であるが、それよりもなによりも自分が完璧なコンディションで挑めなかったことへの悔しさと後悔である。
『なんで私は!! うあああああ!!』
「リーナ……立ちなさい!!」
『!?』
リーナに最後のシングルスを任せた小野寺はリーナに怒鳴る。
「挨拶がまだよ。立ちなさい!!」
ちなみにリーナは友達と遊びに行くくらいだから日本語はわかるのだ。
「いい試合だったわ」
「ツギハマケナイカラ!!」
ネットを挟んで握手する二人に会場は惜しみない拍手をするのであった。
「キャプテン!!」
握手が終わり、コートを出ようとすると、麗がふらついた。だが一瞬でそばによった武藤が支えた。
「ごめんちょっと疲れて……」
「無理矢理ゾーンを続けたからだな。すぐ表彰式だけどいけるか?」
「大丈夫。気合でなんとかするわ。それが勝った者の責任だからね」
それは武藤がサッカー部に居た頃に東方高校から学んだことである。それを女子バド部のメンバーにも教えていたのだ。
泣いて抱き合う女子部のメンバーであったが、その視線と足取りはしっかりとしており、それは紛れもなく王者のものであった。
そして表彰式が無事に終わると、中央女子はマスコミに囲まれていた。
超がつく美少女軍団。初出場にして初優勝。大会連覇の絶対王者の敗北。世界女王初の敗北。そして武藤の存在。話題性にあふれすぎる彼女達を取材しないで何を取材するのかというレベルである。
「キャプテンの塩沢選手!! 今のお気持ちをお聞かせください!!」
「非常に嬉しいです。あまりに現実味がなさすぎて、まだ実は夢なんじゃないかと疑っているくらいです」
「まさか初出場であの聖ウルスラ女学院を倒しての優勝。勝因はなんでしょうか?」
「やはり武藤くんのおかげですかね。うちの学校ってコーチとか監督とかいないんですよ。そこでバドミントン素人だけど天才アスリートだからっていう理由でダメ元で武藤くんにお願いしたら……この結果に繋がりました。練習は厳しかったですけど、ここまでこられたのは武藤くんのおかげです。部員一同その思いは一致しています」
「そこまでですか。一体どのような練習をされたのでしょう?」
「それはまあ、秘密ということで」
「わかりました。今後は追われる立場になると思いますがその心境は?」
「私達は自分達を強いと思っていませんし、ましてや高校の頂点だなんて欠片も思っていません。私達は常にチャレンジャーですから、追われるもなにもずっと立ち位置も思いも変わることはありませんよ」
「立派な心がけかと思います。今日は優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
麗に対する無難な取材が終わるとマスコミの視線はメインターゲットとなる武藤へと移った。本来であれば武藤は大会4日間を通しても個人戦である最後の1日だけいればいいのだが、何故か初日から来ている。何故かと言えば、女子部員達と顧問の教師のお願いであった。男手がないのは寂しいと言われれば、恋人も含むメンバーである。ホイホイと安請け合いをしてしまったのだ。
「武藤選手!!」
目ざとく武藤を見つけたマスコミはこぞって武藤へと群がった。
「中央女子部の子は教え子ということですが、優勝した瞬間どんな思いでしたでしょうか?」
「感無量といった感じですね。厳しい練習によくついてきてくれたと思います」
「一体どんな練習をされたのでしょう?」
「全般的な部分の基礎はどんなスポーツも同じですよ。後はそのスポーツ独自の基礎となる部分を徹底的に鍛える。それだけです」
「というとどういったことでしょう?」
「レベルを上げて物理で殴る」
「え?」
「まあそんな感じです」
「はあ……」
誰も武藤のネタがわからないまま、結局練習方法は有耶無耶なまま終わった。
「明日からは個人戦が始まりますが、武藤選手、首尾の程はどうでしょう?」
「もちろん万全です」
ちなみに明日はダブルスの個人戦なので武藤の出番はない。
「パーフェクトプリンスには勝てそうですか?」
「パーフェクトの意味を教えてあげますよ」
その言葉に周りのマスコミからは「おおー」という、うめき声のようなものが広がった。
ちなみに何故武藤がこんなことを言って真面目にインタビューを受けているかと言うと、麗に大言壮語な口をきいて実際にそれを実行完遂することで、目立ってほしいと言われたからだ。
目立つのが嫌いな武藤だが、恋人の頼みは断らないのである。
決してご褒美として今まで絶対に許してくれなかった試合のユニフォームを着てのアレやコレやをしてくれると言われたからではない……はずである。
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