第316話 選抜本戦 団体戦2

「っぶなあああ!!」


「良かった……勝ててよかった……」


 1回戦後、雲類鷲、躑躅森ペアは心底安堵していた。普段は温厚で優しいのだが、ガチになったキャプテンの麗は超怖いのである。あのままだと負けたらステップでホテルまで帰れと言われてもおかしくなかった。

 

 緊張を上回るプレッシャーにより緊張が相殺され、普段通りの力を出せるようになった中央女子は難なく全勝した。

 

 続く2回戦はなんと第一ダブに六花と千風のCチームが出場し、第二ダブルスに2年生のDチームが出場。そしてシングルスは美空、唐澤、麗である。つまりダブルスは両方負けたとしてもシングルス3人で終わらせればいいという作戦である。武藤としてはもちろん全部勝つつもりであるが、第一目標はダブルスの緊張感を解くことである。本来なら第一シングルスの千風をダブルスに出すことはないのだが、そうなると六花は個人戦ダブルスで初めての試合となってしまう為、一度は試合をさせておきたいという考えであった。これくらいの相手に負けるようならどうせ優勝はできないとの判断でもある。

 

 

 

「くっ!? ちーごめん」


「どんまり六花」

 

 第一ダブルスだが、やはり緊張しているのか六花が普段はしないようなミスを連発していた。そして案の定1セットを取られた。

 

「ちーごめん。私がミスばっかりして……」 

 

「大丈夫だよ六花。今日初めての試合なんだからしょうがないよ。次がんばろっ」


「武藤くん何か六花にアドバイスある?」


 千風が六花を慰めている傍ら、出番を待つキャプテンの麗が武藤へとアドバイスを求めてきた。

 

「シャトルを見すぎてる」


「え?」


「普段六花は周辺視を使って広範囲に渡って空間を認識している。でも今日はシャトルを見すぎていて周りが見えてない。そのせいでルックアップが遅いし、相手の位置も見えてない。後タッチが荒いな。いつもはもっと繊細なタッチしてる。要は力が入りすぎってことだな」 

 

「……なるほど、確かにそうかも」


「まあひとつ言えることは……」


 そういって武藤は六花の頭に手を置いてなでる。

 

「結果なんてどうでもいいから、まずはバドミントンを楽しむことだ」  

 

「……うん!!」


 珍しく武藤が微笑みながら慈しむように六花の頭を撫でると、俯いていた六花は太陽のような笑顔で返した。そして第2セットが始まった。

 

 

(くっ!? この子急に動きが良くなった!?)


 武藤のナデポで本来の調子を取り戻してきた六花は、その圧倒的なセンスで相手の死角を巧みにつくレシーブをしだした。天才の千風をして自分なんかより余程の天才と言わしめる六花である。そのセンスは圧倒的であった。

 

「「あっ!?」」


 ガシっという音がしてラケットがぶつかる。六花が相手の2人がちょうど手を出す場所へとピンポイントでレシーブしたのだ。予測できたとしても簡単にできるようなものではないのだが、激しく動いている2人の動きを完全に捉え、未来予知のように予測する六花はよく相手にラケットをぶつけさせたりお見合いさせたりする。これは中央女子のAチームであるキャプテン、副キャプテンコンビすら餌食になったことがある凶悪な戦術であった。

 


「あー折れちゃったか。六花のあれ凶悪なんだよねえ」


 試合を見てそう呟くのはキャプテンの麗である。どうやら相手選手の片方のラケットがぶつかった拍子に折れたようだ。ちなみに麗も以前やられた時に折れている。ぶつかった場合ガットテンションが高いほうが折れやすいのだ。

 

「ほんっといやらしい位置にいやらしい速度で飛んでくるんだよねアレ」


 副キャプテンの唐澤も苦笑いしている。

 

「警戒して間を詰めてると端に落としてくるし」


「かといって打ち気に流行ってると相方の邪魔しちゃうしでほんっと手に負えないんだよねアレ」

 

 キャプテンコンビの次に犠牲になっているのは雲類鷲、躑躅森ペアである。息のあったある程度上手いもの同士のペアだと余計に喰らいやすいのである。コンマ1秒を争う世界である為、上手い選手程反射で動いてしまう為、どうしようもないのだ。

 

「あれで始めたばっかりの初心者だって聞いたら相手どう思うんだろうね」


「ダブルスとはいえ初めての大会で全国なんて、そんな存在武藤くん以外にもいたんだって思うよねえ」


「まあある意味武藤くんのせいなんだけどね」


 完全に自分を取り戻した六花の試合を見て、観戦している中央女子メンバーは安心してその試合を眺めるのであった。

 

 結局そのまま中央女子は全勝のまま初日を終え、翌日もストレートで決勝戦まで進んでいった。

 

 

「まさか私達がウルスラと戦うことになるとは思ってもみなかったわ」


 そういって麗は試合前に部員の前で感慨深そうに呟いた。

 

「そりゃバドマガでしかお目にかかれないような相手だしね」


 バドマガとはバドミントン専門雑誌である。そこでインターハイや今回の選抜等、大きな大会があると注目度の高い高校として毎年出てくるのが全国常連校であり、女子団体戦インターハイ3連覇をしている聖ウルスラ女学院である。

 

「ウルスラだかウルトラだか知らんけど俺より強いのか?」


 武藤のその一言で部員たちは全員呆然立ち尽くした後、そうか……と納得した。自分達は世界最強と戦い続けてきたのだ。負けるわけがない……と。

 

 決勝は中央女子今日初めての接戦であった。


 第一ダブルスでキャプテンコンビが勝利すると、第二ダブルスの1年生コンビが接戦の末敗北する。

 

 そしてシングルス1で千風がトランザムの末勝利をするが、第二シングルスで唐澤が敗れ勝負は最終戦であるシングルス3までもつれ込んだ。

 

「がんばってくださいキャプテン!!」


「後は任せたわ麗」


 チームメイトの声を受け、麗は静かに闘志を燃やす。

 

「えっ!?」 

 

 コートに出るとそこには予想だにしなかった事が起こる。

 

「小野寺さんじゃないの!?」


 小野寺美鈴。聖ウルスラ女学院の絶対的なキャプテンにしてエース。そしてプリンスと同じく1年生の時からインターハイ2連覇中のいわゆる女王である。そのキャプテンを出さずに見知らぬ外国人らしき女性がコートに立っていた。

 

「!?」


 試合が始まると、麗はすぐに驚愕した。まるで武藤を相手にしているかのような錯覚を覚えたのだ。

 

(この子……強いなんてものじゃない!?)


 軽く打ち合っただけなのにわかる圧倒的な技術。打った時の音がまず違うのだ。まるでガラスを弾いたかのように澄んだ音が響く様はまるで……。

 

(武藤くんと同じ音!?)


 それはピンポイントでスイートスポットに当て続ける武藤と同じ音であった。

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