第73話 ヒーロー

「ただいま」


「うおっ!? 急に現れるな!! 驚くだろうが」


 武藤は教室から先ほどまで乗っていた車の中へと転移した。何度も使っているからか、転移の魔法技術もかなり上達している。転移までの時間も短くなり、転移場所もかなり複雑な場所でも行けるようになっていた。

 

「それでどうだった?」


「大丈夫だ。問題ない」


「……儂その言葉聞いて大丈夫だったこと1度もないんだけど……」


 今まで武藤がそういった時、剛三の元には間違いなく厄介毎が転がり込んできていたのである。

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「……」


 全く信用のない言葉を繰り返す武藤に剛三は諦めた。

 

 





「ぶふぉっ!!」


 その日の夕方。英語だからわからないとはいえ何気なしにTVをつけていた剛三は飲んでいた酒を吹き出した。

 

『子供達を助けた仮面ブレイバーウィザードと名乗ったヒーローはその後、忽然と姿を消したそうです。現場では――』

 

「……俺は何も見なかった。うん、もう寝よう」


 そこまで英語がわからない剛三でもなんとなくいっていることがわかるくらいにはニュースで見知った姿が報道されていた。剛三は何も見なかったことにしてそのまま就寝した。まだ18時である。

 

 


『あっはっは!! あれは君だろう? あんなことができるやつを僕はタケシしか知らないからね!!』 


 そういって武藤の電話口から聞こえる声に武藤は眉をしかめる。

 

「まあ確かに俺だけど、バラすなよ?」


『もちろんさ!! だがやっぱり君だったか!! 君は僕たちだけじゃなくみんなのヒーローだったんだな!! アメリカ人を代表してお礼を言わせてくれ。子供達を救ってくれてありがとうヒーロー』


「偶々だよ」


『それでもさ。助かった命がある。そして子供たちの未来を、いうなればアメリカの未来を救ったんだ」


「大げさだなあ」


『大げさなもんか。彼らの中の誰かが大統領になるかもしれないだろ?』


「まあ可能性は0ではないな」


『だろう? なら君はアメリカの未来を救ったのさ。それに君は例え賞金が出たとしても正体を明かさないだろう? だったら御礼をいえるのは僕だけだ。なら僕が御礼言うのは当然だ』


 妙に義理堅いイケメンの友人は武藤の思い描くアメリカ人をそのまま体現したかのように熱い男だった。

 

 「暑苦しいなあ」

 

 そうはいいつつ武藤はこの男のことが嫌いではない。何よりも家族を大事にする男は武藤にとって信頼がおけるのだ。

 

『はっはっは、今は極寒の地にいるが、これでもデスバレーのあるカリフォルニア出身だからね』


 デスバレーといえば50度を超えたとか武藤でも聞いたことがある場所である。

 

『クリスも是非君に会いたいって言ってるんだ。元気になったら会いに来てくれよ』


「暇だったらな」


 武藤はそっけなく返す。ちなみにクリスは酸素マスクをしていた為、武藤はまともに顔を見ていない。

 

『クリスが元気になったらちゃんとパーティーの招待状を出すからな。来てくれよ』


「……ああ」


 パーティーに呼んでくれといったのは武藤の為、それは断ることができない。御礼を断る為だけにいったことだが、約束した以上それは守らなければならないのだ。だが正直な話、飛行機を使わなくとも1度来たことがる為、武藤はここまで転移で来られたりするので、そこまで大変ではない。聞かれていないのであえて言うようなことはないが。

 

 

 その頃ネットでは仮面ブレイバーの話題で騒然となっていた。

 

 

 とある国のインターネット掲示板スレッド


110 Anonymous


結局仮面ブレイバーってのはなんなんだ?



111 Anonymous


日本のTVでやってたヒーローらしいぞ



112 Anonymous


日本は車やロボットだけじゃなく本物のヒーローまで作ってたのか



113 Anonymous


アイツらは本当になんでも作るな

アイアンマン作ってくれないかな


114 Anonymous


何がやばいって廊下の監視カメラに映ってなかったのに教室にいきなり表れて、生徒達を助けた後に忽然と姿をけしてるんだろ?


間違いなく本物じゃないか。仮面ブレイバーっていうのを知らないけど。


115 Anonymous


日本でも混乱してるぞ。なんでもかなり昔のヒーローらしい。


116 Anonymous


なら中のやつもそれなりに歳いってるってことか?

若い奴知らないだろ


117 Anonymous


それはわからないぞ。父親の趣味かもしれないし


118 Anonymous


母親かもしれないだろ


119 Anonymous


そこは重要なところじゃないだろが




 それはアメリカだけでなく、全世界で話題に上がっていた。何せ教室にある監視カメラにその戦いが映っており、それが公開されていたからだ。まさにそれは魔法であり、仮面ブレイバーを制作していたスタジオどころか、当時の演者の事務所にまで問い合わせが殺到したほどである。

 

 それにより、仮面ブレイバーウィザードを演じていた役者が緊急記者会見を行い、自分ではないと公式に発言したことにより、この役者の事務所は問い合わせ地獄からいち早く抜け出すことができた。突然の外国人記者達に対する記者会見に日本のマスコミもあわてた。一体何の記者会見なのだと。そこで件の事件を知り、大慌ててマスコミはアメリカに飛んだが、その時には既に武藤達は帰国していた為、その移動は全くの無駄になったのであった。

 

 残されたのは制作会社とおもちゃメーカーである。今更20年も前の作品について問い合わせをされてもおもちゃの在庫もなければ、しっかりと覚えている制作陣も少ないのだ。

 だが悪いことばかりではなかった。仮面ブレイバーウィザードのTV放送のDLコンテンツがDL数世界一位に輝いたのだ。それに影響されたのか仮面ブレイバーウィザード以外の特撮のDL数も軒並み増え、現在放送中の作品関連のおもちゃやグッズも飛ぶように売れ、いきなり日本の景気が上がり始めた。それもこれも主に武藤の悪乗りのせいである。


 ネットオークションでは武藤の使っていたものと同じウィザードのグッズが天井知らずに値上がりし、期を読んだ転売ヤー達がこぞって確保に動いた。それはまさしく転売で築いた直感とでもいうのか、その勘は大当たりし、後に転売ヤー達に数百万の利益をもたらした。主に購入者はアメリカ人だった。


 アメリカでは軒並みニュースでこの事件が取り上げられ専門家が出ずっぱりになって考察を行っていた。仮面ブレイバーウィザードの専門家とは一体なんなのかは誰も知らなかったが。

 

『だからウィザードの名の通り彼は魔法使いなんだよ!!』


『それにしてはキックで犯人を倒しているようでしたが?』


『だからブレイバーのウイニングショットは飛び蹴りっていうのはいわば伝統なんだよ!!』


 こんな視聴者を置いてきぼりなやりとりがTVで放送され、視聴者すら困惑させることとなっていた。

 

『あのカードらしきものをベルトに入れることで魔法を使っているように見えますが、これはどういうことでしょう?』

 

『ウィザードは魔法を事前に込めたカードをデッキに挿入することでその力を解放するのです。カードは多種多様に存在しており、TVシリーズだけでも十種類以上は使ってました』


『最後に姿が変わっていたのは?』


『あれはデッドエンドフォームですね。TVシリーズで3回ほど変身したことのある姿です。設定では特殊な魔法使用が可能になるのとブレイブキックの威力が上がるとされています』


『そうですか。つまり他にも形態変化があると?』


『変身といってください。でもデッドエンドフォームでよかったですよ。これがジェノサイドフォームとかだったら生徒達も巻き込んで全員死んでましたからね』


『そ、そんな危険なけ――変身があるのですね』


『そうですね。敵の罠で闇落ちしたウィザードが1度だけ使った変身です。周りを考えずに辺り一帯を殲滅する恐ろしい技、ジェノサイドプロミネンスを使います。これは核爆発に等しい威力で――』


 プツンという音と供にアレックスは流していたTVを消した。

 

『なんか大変なことになってるね、お兄ちゃん』


『ああ、全く彼はやることがハリウッドスターより派手だね』


 そういって病室で美しい兄妹が笑いあう。

 

『本当にアレがタケシさんなの?』

 

『間違いないよ。何せ本人に聞いたからね』


 そういって笑うアレックスの姿はクリスが今まで見ていた無理やり作った笑顔ではなく、本当に心の底からの笑顔だった。そんな兄の笑顔を引き出し、自分の命すら救ってくれたタケシという人物にクリスは非常に興味を抱いていた。

 

『早く会ってみたいな。私のヒーローに』


『まずは彼を呼ぶ為に家を買わないとね』


 既に彼らの実家は売り払われている。その為、彼をパーティーに呼ぶにはボロアパート以外に家を買わなければならないのだ。

 

『何処に買うの?』


『やっぱり故郷のカリフォルニアがいいと思うんだけどクリスはどこがいい?』


『マイアミのウォーターフロントとか憧れるけど、毎日そこで暮らすとなると飽きちゃう気がするのよね』


『ああ、そういうところは別荘としてあるといいかもね。とりあえず俳優仲間の多い南カリフォルニア辺りの物件を探してみよう。ロスでよく撮影もするしね』


『そこって高級住宅街じゃない!! そんなお金あるの?』


『お前の病院代以外に殆ど使ってないからね。正直お金は有り余ってる』


 ヒット作を何本も飛ばしているアレックスのギャラは現在では凄まじいことになっていた。それこそ世界でもギャラランクトップ10入りしそうな程には。

 

『二人で住むならあんまり大きいのは住みづらいかも。そもそも俳優なんて商売はそうそう高収入で長く続けられると思わない方がいいわ。高いところを買うと固定資産税だってとんでもない金額になるだろうし。老後まで考えればそこまで大きいところにしない方がいいと思うの』


『勿論老後まで含めて固定資産税分は先に別枠で確保しておくつもりだよ。それに将来家庭を持つことも考えておかないとね』


 意外に堅実な話をしつつ、兄妹は武藤を呼ぶための家を楽しそうに相談しあうのだった。

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