黒猫にスカウトされたので、呪われ辺境伯家に嫁ぎます!〜「君との面会は1日2分が限界だ」と旦那様に突き放されましたが、甘えん坊の猫ちゃん(旦那様に激似)がいるから寂しくありません
お猫さまの日。after【Epilogue】
おまけ。
お猫さまの日。after【Epilogue】
残暑もすっかり和らいだ九月のある日。王都のタウンハウスに戻っていたクララとジェドは、屋敷内のサンルームで紅茶を飲みながらゆったりと過ごしていた。
クララは不意に、ジェドに呼びかけた。
「あの……ジェド様」
「ん?」
クララの頬は、ほんのりと赤く染まっている。もじもじと言い出しにくそうにしていたが、やがてまっすぐに夫を見つめて、こう言った。
「今日は火曜日です」
どきりとして、ジェドは美貌を強張らせる。
「そ、そうだな、もう火曜か。一週間はあっという間だな」
「毎週火曜のお約束。覚えてらっしゃいますよね」
「ま、まぁ、覚えているが。今週も俺に『アレ』をやらせるつもりなのか?」
「ええ。私達夫婦の、大事な約束です」
「……よく飽きないな。本当にやってほしいのか?」
真剣な顔でこくこくと頷いているクララを見て、ジェドは顔を赤くしながら立ちあがった。
(くそっ。酒が入っていたとはいえ、あんな約束を軽はずみにするんじゃなかった……)
溜息をつきながら、彼はテーブルから距離を取る。ちらりと妻を見やれば、きらきらと目を輝かせてこちらを見つめていた。……ジェドが『あれ』になるのを、クララは今か今かと待ち構えているのだ。
「……仕方ないな。ちょっとだけだぞ」
ジェドは深呼吸をした。次の瞬間、彼の姿は光を纏う巨大な黒豹へと変貌し――さらに次の瞬間には。
『みゃぁ』
巨大だった黒豹の姿は、みるみるうちに小さくなってモフモフの幼獣サイズへと縮んでいった。
「仔猫ちゃん!!」
クララは、恍惚の表情で『仔猫』に駆け寄り、抱き上げた。
「わぁ。やっぱり幸せ。この軽い体……ふわふわの毛……。ジェド様、ありがとうございます」
『……っ、喉を撫でないでくれ。うっ。み、耳もやめろ……っ』
苦悶の表情――あるいはうっとりと気持ちよさそうな顔をして、ジェドは耳をひくつかせていた。
ジェドは今、自身の体に『霊獣化』と『肉体遡行』の二種類の魔法を重ね掛けしている。黒豹の姿になったあと、肉体の時間をまき戻す『肉体遡行』を使えば仔猫のような姿に戻れることを、先日ジェドは発見していた。
酒が入ってフワフワした気分になっていた時に、クララを喜ばせようとして仔猫に化けてみせたのが間違いだった……。クララは泣いて喜び、「これからも仔猫の姿を見せて欲しい」と必死に頼み込んできたのだ。
断り切れず、結局は「週に一回、毎週火曜日だけなら仔猫になってやってもいい」という、よく分からない口約束をしてしまった。
以来クララは、毎週火曜になると仔猫を抱きたがって、ジェドにせがんでくるのであった。
『こ、こら、クララ。そろそろ二分だ。変身を解くぞ……』
「あっ」
仔猫姿のジェドはクララの腕から抜け出し、身を震わせた。成獣の姿に変化し、次の瞬間に人間へと戻る。片膝をついてよろめき、真っ赤な顔で息を荒くしていた。
「もう二分ですか。あっという間で寂しいです」
「はぁ……」
よろけながら椅子に座ったジェドを見つめて、クララは心配そうに声を掛けた。
「大丈夫ですか? 苦しそうですが……仔猫ちゃんに変身するのは、お体の負担になるんでしょうか。だとしたら、私のワガママにつき合わせてしまってすみません」
「い、いや。負担というほどでもないんだが」
クララの撫で撫では、気持ち良すぎて危険だ。ずっと撫でられていたら、理性がどこかに行ってしまうかもしれない。妻の前で、みっともない姿を見せる訳にはいかなかった。
「…………まぁ、一回に二分くらいまでなら我慢できる。今後も問題ない」
出会ったばかりの頃のように、『面会は一日二分』と定めたジェドなのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます