ヒト・カンブリア紀〈Boosted Man file.03〉
安西一夜
01 半世紀前・シベリア
「ユーリ、
「
隣室に住む仲良しのお兄ちゃんが居なくなって、
あの子は処理されたんだ、きっと。そんな呟きが両親の間で交わされたけれど、5歳の幼女に言葉の意味はわからなかった。
ユーリはいつも成績が良くて先生に褒められていた。
それが、ちょっと前から当たらなくなった。もう全然あたらない。
「クスリが強すぎたか」先生たちは、難しい顔でそんな話をしていた。クスリというのは頭を良くするクスリだ。
間もなくユーリは病気になった。頭が痛いと言って、勉強を欠席するようになった。
その日、友達とかくれんぼをしていた
壁が黄色く塗られた場所だ。立ち入ってはいけないと言われている黄色い区画。戻ろうとしたところに、奥から足音が近づいてきた。
見つかる。叱られる!
足音と反対方向へ通路を逃げた。半開きのドアがあったので、そこへ入って隠れた。
灯りの点いていない部屋は倉庫のようで、たくさんの薬品や機材が置かれていた。奥に垂れたカーテンのむこうは明るく、人の気配がある。
忍び足で寄って、カーテンの隙間から覗いた。
看護婦の白衣の背中が見えた。ベッドに向いて立っている。
病室らしいが、その部屋も壁は黄色く塗られていた。
どうしよう。泣きそうになる。
そのとき、看護婦が横へ移動した。
看護婦の陰になっていた、ベッドに寝ている人の顔が現れる。
ユーリだった。
ユーリの頭は、髪の毛という帽子を脱いでいた。皮ごと脱いだ部分に、ピンクのシワだらけの肉が剥き出しになっている。ピンクの肉には、コードの付いた針が何本も刺さっていた。
その音に反応して、ユーリの
目の前に、白い光が炸裂した──
***
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます