第203話
無理して強がるところ。そういうのもまた、逆にリディアの柔らかい場所をくすぐる。
「アール・ナイチンゲール。アメリカの作家さ。一時期、図書館に通い詰めていたことがあってね。色々と読んだよ」
そして名残惜しそうに指を離す。もし口内に捩じ込んだら噛んでくれるのかな、などの妄想をつけて。
解放されたユリアーネは改めて名言を吟味してみる。
「九二パーセント……」
そして八パーセント。なんだか外れた時の脱力感はとてつもないものになりそうだけど。普通に考えれば外さない命中率。となると、この世にどんなことも『確実』というものがない以上、頼っていい数字。
さらにもうひと押しとばかりにリディアは、様々な方法を提起してみる。
「怖いなら、少しずつ外堀から埋めていこう。働きたい、じゃなくて、作り方を教えてほしいとか。スタッフじゃなくて、まず友人になってしまえば、そうすれば確率はさらにいい方向に働くだろうね」
いきなりお願いするよりも、言い方は悪いが目的のために擦り寄っていくこと。可愛いんだから。その武器は使わないと。
「まず、友人から」
目の前の少女が自分にそうしてきたように? そうなるとなにか他に目的があるのではないかとユリアーネはまた疑いたくなるが、もうこの勢いに任せるほうがいいと徐々に乗り気になってきた。
そもそも〈ヴァルト〉も半分は乗っ取りみたいなもの。似たような前例あり。
そして例をあげてリディアはとどめを刺す。
「ほら。私がカフェに行こうと誘うより、話をしようと誘うほうが結果的にカフェに行きやすいだろう? そういうこと」
たしかに。間接的な方法でいったほうが、相手に警戒感を与えない、かもしれない。いつの間にか、目の前の少女に対して警戒心が薄れていることにユリアーネは気づいた。ほんの数秒前まで抱いていたのに。
「とりあえず検討してみます。情報、ありがとうございます」
一度、考えをまとめたい。やることは決まっているが、しっかりと算段を立てて。より確実にいくために。
さて、これでリディアのやることは終わった。仲良くできた。彼女のボルテージも上げた。
「シシーとアニエルカは心配しなくていいよ。もうひとり呼んでいてね。その人物もいるから二人きりじゃない。よかったね」
気になっていたことも取り払ってあげよう。自分であれば、シシー・リーフェンシュタールが誰かに独り占めされているとしたらひどく落ち込む。言い聞かせることで自身も慰める。
「……別に気にしていませんが」
全て彼女の手の上で転がされていたようで、不快感がなきにしもあらずのユリアーネだが、胸につっかえていたものが消え去った気もする。本当であれば。いや、信じよう。
そしてリディアは帰る準備。ドアのほうに向かって歩きだす。
「そう? 私の読みが外れたか」
ねっとりした視線をユリアーネの身体に纏わり付かせ。軽やかな足取りでその場をあとにした。
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