第7話

「あ、それ、ボクっス。あちち」


 と、いつの間にかティーカップを持ったアニーが横から入ってきた。今日はアップルティーの気分。


 真顔で瞬きをせずに、ダーシャは確認をとる。あれ? 僕なんかおかしい?


「うーん、まず一個一個聞こうか。ボクっス、てのは?」


「言葉通りっスよ。全く、その頭の部分についてんのはカボチャっスか? 以前バイト募集の電話があったので、ボクが引き受けたってわけです」


 さらっと悪口も追加されていた気がするが、とりあえず二個目の気になる点。


「男性に、っていうのは? 僕の見た感じ、アニーちゃんは男性じゃないよね? なんでこんなことになっちゃうのかな?」


 はぁ……と、大きくアニーはため息をつき、ポケットからICレコーダーを取り出す。


 なんとなく、今までの経緯からして色々とヤバいような気もするが、ダーシャは恐る恐る問うてみる。聞かない方がいいかもしれない。


「……で、どういうこと?」


「なにかあったときのために、店長と会話するときは、以前から常にレコーダーを回してるんスよ。それでーー」


「落ち着いて」


 アニーの言葉を遮り、ダーシャが一回ストップをかける。信頼が音を立てて崩れていく。


「常に、何してるって?」


「だから、消費者センターに駆け込むってなった時に証拠がいるじゃないっスか。その時のための録音です。他意はないっス」


 他にさらに意味があったら、いよいよダーシャの精神の摩耗が気になってくるが、まずはひとつ。


「んーー、そんなことしてたの。へぇ。で、男性の声ってのは?」


 もう、ちょっとのことでは彼女に動じなくなってきている自分にダーシャは驚いた。録音されていることがちょっとなのかはわからないが、些細なことなのだろう。そうしないと先に進まない。


 アニーがレコーダーをポチポチと操作すると、一瞬間を空けて、音声が流れ始めた。


『オ、デェ!ン……ワァァ……ありがとうございます』


「なにこれ!?」


 ダーシャは驚いてレコーダーを取り上げ、凝視する。そこから流れてきたのは、ところどころぶつ切りとなっていて違和感があるが、紛れもなく自分の声である。


 自慢げにアニーがキッチン内を歩き始める。


「苦労したっスよ。店長あんまり電話に出ないから、決まり文句すら収録されてなくて。編集でなんとかうまくいけたっス」


「いや……そもそもなぜかいつの間にかキミがフロアにいないから、僕がフロアにいて電話には出れないんだけど……」


 さらに再生を続ける。


『ウケタ、マワ、りました。オ!マチ……しております』


 なぜか語尾の方は滑らかなのは、常に言う言葉なので、サンプル採取が楽なのだろう。さらにポチポチ押していると、


『ウメル…ゾ!?』


「いや、なんでこんなのもあんのよ!いつ使うのよ!」


「結構使ってますよ。感謝の言葉よりも多いかもしれないっス」


「なんで!?」


 息を切らしてツッコミ終えると、ダーシャは事態の全体図を掴みにかかる。

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