真夏の祭典
真夏の祭典とコスプレイヤー1
奏汐音は見惚れていた。
何に見惚れているのかと言えば、新しく我が家にやって来た黒地をベースにハート柄の白い模様を胸に持つ猫『はあちゃん』にである。
奏が家で飼うと言っていたはずなのに、なぜ我が家にやってきたのか?
奏の家はマンション住まいで、動物を飼うことが禁止されている。
だから単純に飼うことが出来なかった。
奏のあの発言は後先考えずに発せられた物だったと言う事になる。
奏は病院からはあちゃんを引き取ったその足で事務所にやってくると、大和さんにこう言ったのだ。
「大和さんここに置いて貰っちゃ、ダメですか……?」
と上目遣いであざと可愛く。
奏に完璧に
「いいよいいよ!猫でも犬でも蛇でも半魚人でも!奏ちゃんの頼みならなんでも聞くよ!」
と鼻の下を伸ばし、デレデレの様子でOKをしてしまったのであった。
無論、断りがあれば俺も断るつもりは無かったのだが、血の繋がったおじさんのこんな姿を見ていると少し悲しくなってくる。
歳の差倍くらいあるんだぞ……
それが昨日の話だ。
そして今、まだこの家に馴染んでいないはあちゃんは、俺の部屋のベットと壁のスキマに身を隠し、俺の気配を感じる度にシャーッと威嚇をしてくる。
その威嚇する姿を見る度に奏はニコニコと、はあちゃんの模様と同じ形に目の形状を変化させているのである。
「さっきからずっと言おうと思ってたんだけどさ、なんで俺の部屋に当たり前の様に居座っているんだ?」
何度も言うが、ここは俺の部屋である。
この部屋に住みはじめて四年、立花以外に侵入を許した事はなかった。
立花も好き好んで立ち入らせているわけでは無いのだけど……それが今日、まさに今、奏と言う牙城に崩されてしまった。
「えー?いいじゃん?ダメ?」
奏はアヒル座りで背後に手をついてこちらに振り返ると上目遣いにそんな事を言ってきた。
俺はベットに腰掛けていて、今日の奏は胸元が緩いTシャツを着ている。そんな服装でそんなポーズをしたら見えそうになってしまう。
「えっ?あっ?ああ」
思わず目を明後日の方向に逸らして、思ってもいない返事をしてしまった。
普通に答えたら色を答えてしまいそうだったから。
「どうかしたの?」
俺の様子をおかしいと思ったのか、奏は「よいしょっ」と立ち上がると、俺の方に二歩、三歩と近づいて俺の目を至近距離で直視しようとしてくる。
「いやなんでもないよ」
「うーん?なーんか変だなー」
疑惑の目で俺を見る奏からどう逃げおおせるかを考えていたら、階下の事務所から
「おーい翔!お前にお客さんだぞ!」と声をかけられたのだ。わたりに船とはまさにこの事。
「悪いな奏。大和さんに呼ばれたからちょっと行ってくる」
奏の返事を待つことなく俺は部屋を飛び出した。
「あっ!ちょっと待ってよ!」
一安心。
はあちゃんが心配なのだろう。奏が追って来ることはなかった。
だけど階段を降りながらこうも思った。
しかし、自分の部屋に女の子が一人でいると思うとこれもこれで落ち着かないなと。
「翔、立花君以外の友達が来るなんて珍しいな。おじさん少し安心しちゃったよ」
階段の下でまっていた大和さんが、わざとらしく腕で涙を拭うような仕草を見せるが当然涙なんか流れちゃあいない。
「立花は友達じゃありませんけどね。でも、そうなると誰なんです?」
大和さんが、事務所の方を指差しながら言ったのだ。
「佐渡君って言ってたかな?」
「佐渡……」
それは最近、どこかで見聞きした覚えのある名前だった。
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