第28話「捕獲」
僕は何とか最後の力を振り絞って、ソウタと一緒にイノシシの群れを追いかける。散らばりかけていたイノシシの群れは、ソウタが倒れた僕をすぐに起こしてくれたおかげで、なんとかうまく集めることができた。
「二人のところまでもうちょっとだミクジ!よくやった!!」
追いかけていたイノシシ達の奥には、二人の魔法少女が僕達が来るのを待ちながら立っていた。あとはこのまま二人にバトンタッチをして、うまくこのイノシシ達を捕まえてくれるのを祈るだけだ……!
「ツグミさん!ミリンちゃん!ここまで全部ミクジがやってくれたんだぜ!!」
ソウタが大きな声で二人に呼び掛けてくれる。僕はただ走り回っていただけなのに、全部ミクジがやってくれたんだ、と言ってくれるのが素直に嬉しい。
「え、すご!!やるやんミクジ!!」
「流石ミクジ君!ありがとう!!カッコよかったよ!」
二人が大きな声で僕のことを褒めてくれる。あまり褒められることに慣れていない僕は、触られたことのない体の部分を女性に触られたかのような、こしょばゆい気持ちになる。そして、褒められているのは僕なのに、横で一緒に走っているソウタもなんだか嬉しそうだった。
「ソウタ君も飛んだり走ったり、ありがとう!」
「ソウちゃんも流石だったよ!!」
女性チームの二人は、僕だけでなくソウタにもそう言ってくれた。僕までなんだか嬉しくなる。ソウタは空いている方の腕で大きくガッツポーズをして、二人の声に答えた。
「お二人さん!捕まえる準備は大丈夫そうか?」
ソウタが二人に尋ねる。僕はそろそろ走り続け過ぎて、足がスパゲッティのようにもつれそうだった。でも、もう倒れたりはしない。今の僕は一人で走っている訳じゃないから。
「準備、オッケー!!危ないから離れててね!」
ツグミさんとミリンは声を合わせてそう言うと、腕で大きな丸を作って頭の上でアピールする。
「よし!頼んだ!!」
ソウタは少しずつ走るスピードを落とす。肩を組んでいる僕もそれに合わせて足を動かしていく。イノシシ達は僕達がスピードを落としたことに気付くはずもなく、ひたすらまっすぐにツグミさんとミリンがいる場所に向かっていく。
――僕とソウタが走っているちょうど目の前に、宙を舞うステッキが突然現れたかと思うと、あの日見たのと同じように魔法陣を地面に描き始めた。魔法陣は透き通ったビー玉のように透明なオーラを放ちながら、イノシシの群れと、ツグミさん、そしてミリンを飲み込んでいく。
「危ない!!!」
僕は咄嗟にソウタの肩を後ろに引っ張り、僕達二人はそのまま後ろに尻餅をついて倒れ込んだ。目の前に現れたステッキと魔法陣。レンを救うことができなかったあの日のトラウマが呼び起こされる。
(ミリンはこの中にいて大丈夫なのか……?)
これは、おそらくツグミさんの放った魔法なのだろう、と僕はすぐに分かった。魔法陣の規模やオーラの色は、前に見たソレとは違っていたが、特徴はほとんど同じだ。
問題は、ツグミさんがどういう目的でこの魔法を使ったのかが分からないということだった。単純に考えれば、タイミング的にも、イノシシ達を捕まえるための何かしらの魔法なのだろう。
ただ、もしもイノシシ達を捕まえると見せかけて、ミリンを殺して魔力を奪うのが彼女の今の目的だったら。ツグミさんのあの魔法の発動条件は「男性から愛の告白を受けること」だと思い込んでいたが、実はそうじゃないのかもしれない。魔法陣の中に入ってしまったミリンが殺されてしまう可能性だって、きっとゼロとは言えない。
イノシシを集めた後捕まえる方の作戦を全てツグミさんとミリンに任せてしまっていたのが間違いだった。ツグミさんなら僕よりいい作戦を考えるだろうからと、何も聞かなかったのはまずかった。実際、僕とソウタも危うくこのよく分からない魔法を喰らってしまう所だった。
――ガンッッ!!!
突然、僕達の目の前で、一匹のイノシシがその透明なオーラから逃げ出そうとしてものすごい勢いで顔面をぶつけた。その小さな子供のイノシシの顔からは皮膚がめくりあがっており、赤い血が痛々しくドロッと垂れていく。そして、そのイノシシは気絶してしまったのか、死んでしまったのか、その場でバタンと横になって倒れてしまった。ひっ……と、ソウタが見てはいけないものを見てしまったような顔で声に出す。魔法陣から出ていた透明なオーラは、その事故現場を隠すようにゆっくりと青く濃く染まり出した。
「……ミリンを殺さないでくれ!!お願いだ!!」
直感的に、このままだとミリンが死んでしまう、と思った。あの日見た人間の抜け殻のようなものが脳裏をよぎる。僕はもうほとんど残っていない力を振り絞って立ち上がり、目の前にある透明なオーラに向かって猪突猛進で走ろうとする。だが、僕の体をソウタが素早く抱きかかえ、前に進むことができなくなる。
「落ち着けよ、ミクジ!どう考えてもこれはツグミさんとミリンちゃんの作戦だろ?!今は休んでいい時だ!」
僕はなんとか腕を伸ばして、その青くなったオーラに触れる。だがそのオーラは分厚いコンクリートのように固い上、圧倒的な魔力の差に手を触れているだけでも皮が剝がれていきそうな程だった。僕があのままソウタに止められずぶつかっていたら、全身の皮が剝がれるのでは済まないほどの大けがをしていただろう。
僕は火に直接手を触れたかのような痛みに驚き腕を引っ込めて、ソウタに引っ張られて情けなくその場で倒れてしまった。ソウタは力のなくなった僕をお姫様抱っこで抱え込み、オーラから少し離れた場所に運んでいく。ソウタの圧倒的な筋力を前に僕が抵抗を出来るわけもなく、僕はボロボロの体操服を着たままかっこ悪いお姫様になってしまった。
「……二人を信じようぜ」
ソウタはそう言って、僕を優しくゆっくりと地面に降ろして一緒にしゃがみ込む。僕はただただ、ミリンが無事であることを祈った。
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