第8話 免許皆伝
竹千代が駿河にいってさらに1年ほど経った。
俺はあれからも銃の制作・研究、剣術、兵法、銃術に明け暮れる日々を送った。
剣術も兵法も銃術もそれなりに上達した。
剣術はまだ信長には勝てないがそれなりの勝負は出来るようになった。
兵法はこの前、平田三位に免許皆伝をもらった。これは前世の記憶があるのが影響している。兵法とは戦の合理性を追求したものでサバゲーを極めていた俺からすれば理解しやすいものだった。9歳で免許皆伝なんて前代未聞だそうだ。
そして俺が最も力を入れていた銃術について。これの免許皆伝の試験が今日だ。
「千代松、準備はいいかい?」
「はい、一巴師匠!」
「よし、じゃあ試験の内容を説明する」
その試験の内容がやばすぎて俺は戦慄した。
その試験の内容は最初に来た草原で1時間生き残ること。もちろんただ生き残るだけではない。腰に野生動物がたくさん寄ってくる香料をつけて焚く。その状態で1時間生き残るのだ。前に10分ほどつけて修行したことがあるがかなりの効能があり四方八方からオオカミやらイノシシやらが寄ってくるのだ。あれを1時間だなんて冗談じゃないと思ったが一巴師匠に「きっと今ならできるよ」と一蹴された。
「じゃあ香料に火をつけるよ。準備はいいかい?」
「はい。一巴師匠」
「本当に危ないと思ったら助けるけど、絶対じゃない。死ぬときは一瞬だ。気を抜くなよ」
「はい」
「いつでも冷静に、だよ」
「はい」
「じゃあ着火する。いいね?」
「はい」
そう返事をすると一巴師匠は火打石で火をつけた。なんだか説明しずらいにおいが漂い始める。そして森からオオカミが1匹、顔を出した。ためらいなく撃つ。脳天に直撃し、オオカミが息絶える。それが皮切りとなり森から次々とイノシシやらオオカミやらキツネやらが続々と出てきた。それらを一匹ずつ丁寧に脳天をぶち抜いていく。
しばらく経った。獣の死体のにおいが充満している。死体の匂いがさらに動物を呼び寄せる。俺はただひたすら襲ってきた動物を殺し続けた。装弾数を増やすことは叶わなかったが弾薬の製造でリロードは普通の火縄銃の3分の1ほどにまで短縮されている。10メートル以内には未だ近づかれていない。その時、ある方向の獣が一斉に散っていった。なんだ?と思った直後、森からひと際大きな獣が姿を現した。デカめのイノシシかと思ったが、明らかに違う。こちらを茂みから伺っている。俺はそっちに気をかけながら、他方面から襲ってくる獣を始末する。
そいつは唐突にこちらに走り寄ってきた。前世でドキュメント番組でみたことがある。逆に言えばドキュメント番組でしか見たことがない。熊だった。真っ黒の。猛スピードでこちらに向かってくる。的確に心臓を撃ちぬいた。なのに止まらない!?
即座に念のため左足に装備していたもう1本の銃を取り出し頭を撃ちぬく。まだ止まらない。嘘だろ!?右手に握った愛銃を投げ捨て、右足の方の銃を抜く。熊との距離はもう3メートルほどだ。大きく後ろに飛んで下がりながら狙う。だが熊も飛んだ。前に大きく。もちろん前方に飛んでいる熊の方が後方に飛んでいる
「はーーーーっ」
気が抜けて息を大きく吐く。その隙に襲ってくるキツネを撃ち殺す。熊マジやばかった。心臓と頭撃ってもまだ動くんだもん。しかもめっちゃ早かった。3発的確に急所に撃ち込んでやっと勝てるとか、そりゃあ素手でどうにかできるわけないよ。多分刀でも無理だね。熊に叩き付けられた背中が痛い。刀で受け止めたのに…。その刀は刀身がへし折れている。パワーも高すぎだろ⁉︎
熊を倒してからは消化試合のような感じだった。時折、左手が痛んで弾薬を落とし、触れ合える距離まで近づかれるなどというアクシデントはあったもののそのほかには特にこれといった問題が起きることはなかった。そして1時間経ち、木の上で見ていた一巴師匠が迎えにきて、試練は終わった。
「おつかれ、千代松。おめでとう、これで僕の試練は終了だ。約束通り、免許皆伝を授けよう」
「ありがとうございます!!」
ちょっと涙出てきた。一巴師匠にはこの2年半、いろいろなことを教わった。
「さすがの僕も熊が出てきたときは驚いたよ。実際、火縄に火をつけるまでしたしね」
一巴師匠は笑いながらそう言う。実際、かなり焦っただろう。
「でもあれを一人で倒せるなんて、僕の想像以上だよ。僕も熊は倒したことないしね。そもそもあったのもさっきが初めてだけど」
「そうなんですか、でもきっと師匠なら熊が3匹くらい同時に襲ってきても勝てますよ」
「いや無理」
真顔で返された。まあ、さすがにね?3匹は盛ったか。
「とにかく、おめでとう。ほら信長様や利家殿に報告しておいで」
「はい!!」
それから俺は信長様や利家に報告に行った。
信長は喜びつつも「俺はまだなのに・・・」と少し悔しそうだった。信長様は負けず嫌いなのだ。だが、そんなことは関係なく信長は少し気まずそうだった。何かあったのだろうか?
それに対して利家は素直に喜んでくれた。
「すごいよ、千代松!!一巴先生に免許皆伝を貰えたのなんてまだ数えるほどしかいないんだよ!それを9歳で…!ほんとにおめでとう!!」
信長もこれを少し見習ってほしい。
あと他に報告したのは清洲の父と母だ。帰るのはちょうど一月ほどぶりだ。
「父上、母上、ただいま帰りました!」
「おう、久方ぶりだな。千代松、元気にしてたか?」
「あら、千代松。おかえりなさい。何か良いことでもありましたか?」
おっと、顔に出ていたか?
「はい!さっき、橋本一巴師匠に銃術の免許皆伝を貰いました!」
「ほう!それはすごいな!」
「おめでとう、凄いわ、千代松!さすが私の子ね」
やっぱり、この家は心地がいい。こういう家族の温もりというものが、前世の俺にはなかった。こうやって素直に褒めてもらえることが、こんなにも心地の良いことなのだと俺は新しい人生でやっと知ることができた。家族というものがこんなにも素晴らしいものなのだと俺は新しい人生でやっと知ることができた。前世ではそんなことは思いもしなかった。家族というものが温かいものなのだと、前世では微塵も感じたことがなかった。
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