第17話 艶

 ネーコは俺にチラリと視線を流してから、その場ではんなりと三つ指をついた。


主様あるじさま。如何で御座いましょうか」


 この時、俺は思った。

 

(なにこれ、逆にエロい......)


 どうやら俺は疲れているようだ。


(これがホントの殿様プレイ!?)


 俺はもうダメかもしれない。


 そう思った矢先。

「あら、電話かかってきちゃった」

 と母さんが席を外してしまい、着物姿のネーコとふたりだけになってしまう。


 ネーコはすっと俺を見上げると、

「主様の御部屋に御邪魔しても宜しゅう御座いますか?」

 お伺いを立てるようにった。


「あ、はい。どうぞ...」


 俺は戸惑いながらネーコを迎え入れた。

 

「......」


 座布団に大人しく正座するネーコ。


(むしろエロい......)


 じゃないわ!

 落ち着け!俺!


(いつもより露出度は格段に低い。顔以外は手足と、あとは首ぐらいなもんだ。いったいどこにヤラシイ要素があるんだ)


 ネーコの首元には、夜会巻きにった髪の毛からのぞくうなじが見える。

 すると、俺の頭にもわぁ〜んとある記憶が蘇る。


(一緒にお風呂入った時以来のうなじ......!)

 

 そこかぁ!

 そこにトリガーがあったかぁ!

 言うなれば、エロノ・トリガー......。

 じゃないわ!


 クソォ!

 ふつふつと興奮が沸き起こってきやがる!

 これが中学二年生男子の性命力か!

 計り知れねえ!


(中学二年生男子とは、一粒のエロの種から、大森林を育てる者なり......)


 何かをさとった俺......じゃねえわ!

 ただ興奮しているだけだろ!

 

「主様?どうかなされ申したか?」

「い、いや!なんでもない!」


「着物姿の袮絵子は、主様のお気に召しませぬか?」

「そ、そんなことは!」


「ならば......」

「?」


 ネーコはおもむろにすっと立ち上がってススッと歩きだすと、髪結いをはらりと解きながらベッドにふわっと倒れ込んだ。


「ね、ネーコ?」


 どうやったのか。

 いつの間にか帯が緩んで着物がはだけている。

 白い肩が無防備にさらされ、豊かな乳房の坂道の峠付近で衣が留まっている。

 さらに視線を下げてゆけば......片方の脚が太ももに至るまで艶美えんびき出されていた。


「主様......」


 袮絵子はみだれた髪の毛の一筋を口に含みながら湿った声を漏らした。

 一転してしどけない姿をあらわにする彼女は狂おしいほどに婀娜あだめく。


(ヤバい。ヤバいヤバいヤバい......!)


 今までとはまた一味違うアプローチだが......なんだこれは!?

 ついさっきまで凛としていた分、その落差でやられる!

 これがいわゆるギャップ萌えってヤツなのか??


「主様。私を抱き起こしてくださいまし......」


 袮絵子がしっとりとねだった。

 俺はなす術もなく吸い込まれるようにベッドへ体を寄せた。


「主様。さあ......」

 

 袮絵子が俺に白くて細い両腕を伸ばす。

 俺も手を伸ばして上体を屈める。

 袮絵子へ覆い被さるように......。


 その時。


「はいはいネーコちゃーん。お待たせ〜」


 これでもかというほどの絶好のタイミングで電話を終えた母さんが戻ってきた。

 扉が開けっぱなしだったので、戻りざま母さんと俺の目がピタッと合う。


「ちょっ......」


 母さんのスマホがガタンと床に落下する。

 母さんから見れば、その光景は、美少女をベッドに押し倒して今にも間違いを犯そうとしている息子といったところか。


「ち、違うんだ!これは...」


 思わず俺は不倫現場を押さえられた浮気夫のような声を上げた。


「こんの......バカ息子がぁぁぁぁぁ!!」


 家がギシギシと揺れるほどの怒号がとどろく。


「そんな元気あったら学校行かんかぁぁぁぁぁ!!」


 正論オブ正論。

 何も言う言葉もない。


 この後......。


 俺は誤解を解くのに数時間を要した。

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