第12話 昼食

 十分ばかし間を置いて......。



 なんとか頭と心と下半身を冷やすと、俺は下に降りて食卓についた。


「さあ、フミヒロ様。お召し上がりください」


 ネーコはもとの制服姿に戻っていた。

 

(残念......じゃなくて安心!)


 テーブルに並べられた料理はごく一般的な献立のものだったが、母さんが作る料理とはまた異なっていた。

 でもなんだろう。懐かしい感じがするというか......。


「ね、ネーコ。この料理って...」


「これは本日の給食です」


「給食?」


「正確に言えば、フミヒロ様が通う学校の給食の献立とまったく同じメニューを私が作ってお出ししたのです」


「そうなの?」


「なのでこちらは本日、今現在学校で出されている給食とまったく同じです」


「な、なんでそんなことを」


「まあまあ、とにかく冷めちゃいますから早くお召し上がりください」


「あ、うん。じゃあ、いただきます」


 俺は料理を食べ始めた。

 正面に座るネーコは黙ってこちらを見ている。


「あ、あの、ネーコ」


「お味が気に入らなかったですか?でも味付けもすべて給食のレシピとまったく同じにしている結果で...」


「そうじゃなくて」


「ではなにか?」


「そんなに見られていると食べづらいっていうか...」


「あら、これは失礼しました。では私が口移しで食べさせて差し上げましょうか」


「なななんでそーなる!!せめてアーンだろ!」


「私に「あーんっ!」と言わせたいのですか?相変わらずお盛んですね」


「食事中にやめてくれ!」


「フフフ。冗談です。それでは私は席を外していますから、ゆっくりお召し上がりくださいね」


 ネーコは席を立って部屋から出ていった。

 俺は再び箸を手に取ると、ひとりで食事をしながらボンヤリと考える。


(ネーコは......俺の不登校をなんとかしようとしてくれているのかな。それもあいつの任務のひとつなんだろうか。ハッキリそうとは言わないけど......)


 自分でもわかってはいる。

 このままではいけないって......。


「ごちそうさまでした」


 食べ終わった。

 給食...とまったく同じ昼食は、フツーに美味しかった。

 俺は箸を置くと、食器をまとめて台所に運んだ。


「あ、フミヒロ様」


 ちょうどネーコもキッチンに入ってくる。

 俺はシンクの蛇口をひねってジャーッと洗い物を始めた。


「ご自身で洗われるのですね」

「残しとくと母さん怒るし」


「なら私がやりましょうか?」

「いいよ。自分でやるから」


「自分でヤる?自慰行為のことですか?」

「オイ!お前は淫語変換機なのか!」


「フミヒロ様」

「なんだよ?」


「フミヒロ様は、きっと大丈夫ですよ」

「は?なにが?」


「なんでもありません」


 ネーコはニコッと微笑んでキッチンから出ていった。

 俺はその笑顔になんとなくドキッとする。

 

「な、なんなんだよ、アイツ......」

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