第10話 モミモミ

「ね、ネーコ??」


 やわらかい。

 やわらかくて、あたたかい。

 なんだこの今までに感じたことのない感触は??

 

「フミヒロ様。こちらに」


 ネーコは俺の頭を胸に埋めたまま、俺を椅子から引きずり出した。


「えっ?ちょっ」


 そのまま俺はズルズルと引っ張られるように、

「こちらです」

 ネーコとともにベッドへ雪崩れ込んだ。


「ね!ネーコ?いきなりなにするんだよ?」

「ナニ、スルんです」

「は?」


 仰向けになった俺にネーコはいつの間にか馬乗りになる。


「フフフ...」


 馬上から挑発的な表情を浮かべるネーコ。

 俺は下腹部の辺りにぴったりとくっつくネーコの太ももとその付け根の先を感じる。


(あ、あたってる......)


 今まで想像すらできなかった未知の感触にドギマギするのみの俺。

 そんな中二男子をよそにネーコは続けて、

「さあ、フミヒロ様」 

 おもむろに俺の手を取って自分の胸にむにゅ~っと当てがった。


「円周率をお答えください」

「ななななにをいきなり!」


 今度は掌から伝わってくる奇跡の感触に気を取られ全くもってそれどころではない。

 

「といっても、数字を言って答えてはダメです。この手で答えてください」


「はっ??」


「2ならモミモミ。3ならモミモミモミ。と、揉む回数でお答えください」


「な、ななななんだそれ!」


「あっ、でも円周率は無理数ですもんね。なので終わりがない。ということは......」


「一生もみ続ける......てオイ!」


「フフフ。いくら性欲旺盛だからといっても、限界はありますもんね」


 凄艶な笑みを滲ませて俺を見下ろしている美少女アンドロイド。

 俺は今にも『モミっ』としそうな手を必死にこらえる。


(ヤバいヤバいヤバい!これはヤバい!)


 もうこれは......モんでしまってもいいのでは!?

 問題に回答するためなんだし......てダメだダメだダメだ!

 落ち着け俺!

 冷静になるんだ俺!


 そもそもネーコはアンドロイドなんだ!

 本物の人間の女の子ではないんだ!

 そうだよ!

 なんせ俺が今さわっている胸も、中にはCDプレーヤーがついているんだぞ!(第三話参照)

 そこには俺の大好きなミスチルのCDが入ってるかもしれないんだ!※


(※ミスチルとは、国民的人気バンド・ミスターチルチルミチルドレンの略称である)


 そう。

 親子二代でファンのミスチルのCDが......


(入ってるわけあるかぁぁ!!)


 俺の頭の中では理性と性欲のシーソーゲームが激しく展開する。

 が、理性チームが優勢にたったほんの一瞬。

 俺はふとあることに気づき、

「あ、あの」

 苦し紛れに問いかけた。

 

「なんですか?」


「い、今のこれは、て、手を出したことに、なるのか?」


「この場合はなりません。フミヒロ様の意志でやっているわけではないので。その辺は厳密に審査しております。

 無論ひとモミした瞬間に撮影は始まりますが、今はまだ撮っていませんからどうぞご安心ください」


「よ、良かった......じゃないわぁぁぁ!!」


 俺は気合いでバッと手を振り払った。

 そしてネーコの騎乗からするりと抜け出すと、ベッドから滑り落ちるように脱出した。


「続けないのですか?フミヒロ様」

「や、やらないよ!」


 俺は逃げるようにバン!と部屋を飛びだした。

 そのままダダダダッと階段を駆けおりて洗面所に入り、無我夢中でジャバジャバと顔を洗った。


「はぁ、はぁ、はぁ。ヤバい、こんなんじゃもたない......」


 洗面台の鏡に向かって濡れた顔でつぶやいたその時。


「フミヒロ様!」


 ネーコが洗面所の入り口からひょこっと顔を出した。


「ネーコ?」


 彼女はニヤリと笑うと、

「ミッションコンプリ〜ト!国家救済に一歩前進!」

 いつものアレを叫んだ。


「うううううるせぇぇぇ!!」


 かつて洗面所でこんなに叫んだことなど一度でもあっただろうか。

 俺は室いっぱいに声を鳴り響かせてから、ネーコをはねのけて勢いよく部屋にUターンしていった。

 自部屋に帰還するなり俺は頭を抱えて天井を見上げる。


「これってホントに...未来のためになっているのか!?」

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