ep.6 大好きなこの町

ちなみに、過去の失踪者に吉岡さんのご親族の方などは?


「いません。調べた中で見つけた失踪者の中には、名前も顔も知らない人ばかりで」


わかりました。今、吉岡さんが不安がになられているのは、いつ自分がいなくなるかわからないという気持ちが大きいような気がします。

証拠が出てきた以上、私もご依頼人に自由にしてくださいとは言えません。

しかし、私はまだ吉岡さんから聞いた情報しか持っていません。

なので明日から、本格的に調査をして、吉岡さんが知らないこの失踪事件のもう少し深い部分を探ろうと思います。

今日はお家までお送りしますので、もし、身の危険を感じたらいつでもここに連絡を下さい。


そう言って私は、連絡先を渡した。


「あ、いえ。一人で帰れます・・・。」


すみません。下心があってとかではないんです。

先ほど書類にご記名いただいた通りなんですが、

少し嫌な言い方に聞こえるかもしれませんが、現時点で私にとって吉岡さんはクライアントという立場になっていまして、吉岡さんに何かあると、私の方にも被害があるというか・・・。


「すみません、そうですよね。わかりました。ではお言葉に甘えて」


そう言って私が渡した連絡先の紙をバッグにしまいこんだ。


ファミレスからの帰り道、私は探偵として一つの疑問を問いかけた



“もしも、この失踪事件の真実があなたの好きなこの町を嫌いになるような話だったら?”


そんな不躾な問いに、吉岡さんは、笑顔で答えてくれた。


「それでも、きっとこの町に残ると思います。それぐらい私には大切な町なんです」


そんな彼女の言葉に私は、仕事という考えではなく、人助けという気持ちが優先した。


私が探偵になりたかったそもそもの理由を彼女はその笑顔と一言で思い出させてくれた。


彼女は家まで送り届けた私を、見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれた。

そんな恐怖にまみれた状況なのに、家の門に柵があるのに、その外に出て。

そんな光景を見た私は心から優しい人なのだと思った。


そして私は一泊2500円の民宿に泊まり2段ベッドの下で思い返すのだった。


空港連絡バスで隣に座った彼の言葉を。

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