ゴブリンは遺跡を進みます2

「デカーヌの感じはどうだ?」


「少し……近づいたと思います」


 ぐるぐるとしている感じはあったので大きな距離を移動したとは思えないが下がってきているのでデカーヌとは近づいているはず。

 ドゥゼアの視線にカワーヌは頷いて答えた。


 言われてみれば近づいた感じはある。

 家っぽい入り口のところにいた時に比べれば幾分かはという感じであるが近づいているのは確かである。


「ということはまだまだ先は長いか……」


 カワーヌの感じからまだデカーヌまでありそうだと言うことをドゥゼアは感じた。


「骨ある」


「……戦いがあったようだな」


 階段を降りて下までくると広い部屋に着いた。

 レビスが部屋の隅に骨が転がっているのを見つけた。


 一体だけのものではなく、複数体分の死体がある。

 部屋の様子を見る感じでは戦いがあったのだとドゥゼアは思う。


 ただ何と戦ったのかは分からない。


「それに骨になってことはかなり古い死体ってことですよね……」


「その通りだな」


 少なくともデカーヌと共に入ってきた冒険者の死体ではない。

 肉体が腐り落ちて骨になるまで時間がかかる。


 デカーヌと共に入ってきた冒険者がこうなるには早すぎる。

 デカーヌたちよりもはるか以前に入ってきた冒険者の死体なのだろう。


「何があったのかは知らんが……今はも何もなさそうだな」


 何かしらの罠なりがあったことは間違いないが他に死体もないことを見るに誰かが攻略してしまって以降は何もないことが窺い知れる。

 とりあえず警戒しながら部屋の反対側まで来たけれど何もなかった。


「ここも似たような感じだね」


 次の部屋に移動した。

 そこも部屋の中に骨が転がっていて、最初の部屋と同じようになっていた。


「……人? いや、違うな……」


 何と戦ったのかドゥゼアは推測しようとする。

 魔物ではないと思う。


 死体の山が積み重なっていないので他の冒険者はここを通り抜けていったことは確実。

 つまりここにいた何かは倒されたと見ていい。


 しかし倒された何かの痕跡を探そうとしても見つからないのだ。

 魔物だったなら人でない何かの骨が残っていてもおかしくないのに、人でない骨のようなものは見つからない。


 けれどわざわざ人がこんなところで待ち受けていて守っていたというのも考えるのに無理がある。


「砕けたような死体が多いな……」


 ドゥゼアは床に転がる骨を見ながらつぶやいた。

 頭のところが砕けた頭蓋骨や折れた骨が落ちていて、骨の損傷が激しいと感じた。


 風化しているから骨が壊れてしまったということも考えられるのだけどそれにしてはという感じがある。


「何と戦ったんだ?」


 もし仮に戦った相手によって破壊されたのだとしたらかなりのパワーを持った敵ということになる。

 おそらく人じゃないだろう。


「まあいいか……」


 骨を眺めても答えを返してくれるわけじゃない。

 冒険者が帰ってこないという話がある以上は冒険者たちが戦った何かはまだ存在している可能性がある。


 進めば分かるとさらに進む。


「……高い」


「落ちたら助からないね……」


 冒険者の死体が転がる部屋を抜けるとかなり広い場所に出て、断崖絶壁の崖が目の前が広がっていた。

 これでは先に進めない。


 レビスとユリディカが崖の下を覗き込むと闇が広がっている。

 少なくとも手に持った明かりの光が届かないほどの深さがある。


「あっちから進めそうですよ」


 崖を正面にして左側には壁が続いている。

 よく見ると細い足場が壁にはあって、そこを辿っていけば進んでいけそうだった。


「マジかよ」


 流石のドゥゼアも顔をしかめた。

 足場は細い。


 ゴブリンのドゥゼアなら割と余裕があるがワーウルフのユリディカやリザードマンのオルケ、オオコボルトのドッゴだとギリギリである。

 ここまで無表情だったドッゴもここを渡るのかと鼻にシワを寄せて顔をしかめていた。


「仕方ないな」


 他に道はない。

 足場を渡って通り抜けていくしかない。


 ドゥゼアは少しでも生存の可能性を高めるためにみんなの体をロープで繋いだ。

 そして壁に背中をつけるようにして横に歩いて足場をゆっくりと進んでいく。

  

「本当にここにいるんだろうな!」


「い、いますぅ〜」


「クソッ……なんでこんなことになったんだよ……」


 先頭を行くドゥゼアは罠を警戒しながら後ろのみんなの進行スピードも確認して相当気を使いながら進んでいく。


「ひょ……ひょえ〜……」


 ドゥゼアは背中を壁につけているがオルケは体の前面を壁に張り付かせるようにしている。

 背中ではなく体の前面を壁に向けているのにはわけがある。

 

 それは尻尾があるから。

 リザードマンであるオルケのお尻には太くて立派な尻尾がある。


 背中を壁側に向けてしまうと尻尾が邪魔で落ちてしまう。

 そのために尻尾がある背中側を外に向けねばならなかった。


 ワーウルフのユリディカやコボルトのカワーヌも尻尾はあるけれど股の間に垂らすようにすればほとんど問題はなかった。

 ユリディカはワーウルフであるためにやや前傾姿勢がいつもの体勢で、手に身につけたチクートで壁を無理やり掴むようにしながら頑張って背筋を伸ばして前屈みにならないように頑張っている。

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