ゴブリンは不思議な遺跡に挑みます2

「オオコボルトはコボルトが進化したものの俗称ですね。ホブコボルトのことですよ」


 オルケがサラッとオオコボルトの説明をしてくれる。

 ゴブリンが進化したホブゴブリンのようにホブコボルトというものがいる。


 ホブコボルトと呼ぶ人も多いのだが一部の人はオオコボルトと呼ぶこともあるのだ。


「オオコボルトはいいがコボルトも一緒にいるのは珍しいな」


 オオコボルトが進化して知恵を身につけたから魔人商人として活躍しているということは理解できる。

 しかしコボルトまで一緒にいて魔人商人としてやっているのは珍しい魔人商人の中でもさらに珍しい。


「ふーん、そうなんだ」


 純魔物であるユリディカにはコボルトが魔人商人であることが珍しいということがいまいち分かっていない。

 ドゥゼアがそういうのならそうなんだろうぐらいの感覚である。


「考えてもみろ、コボルトが商売できるように思えるか?」


「…………出来なさそう!」


 ユリディカは以前に会ったコボルトたちの姿を思い出す。

 悪い奴らではなかったけれど頭のいい魔物ではなかった。


 ついでに商売と聞いてゲコットも思い出してみる。

 ドゥゼアとゲコットで値段の交渉をしていたけれどそんな話し合いをコボルトができるとはユリディカには思えなかった。


 ユリディカ自身もできるような気はしないがコボルトよりはできるかもしれないとは思う。


「コボルトは基本的に頭が良くないからな。進化したオオコボルトならともかくコボルトが知恵を持ってることは少ない」


 ゴブリンは知恵を使う魔物なので時々賢いやつが出てきたりする。

 ゴブリンは賢くてもゴブリンなので商人になれる可能性は限りなく低いけれどコボルトよりも賢い個体が出てくる頻度は高いのだ。


「まあ会いに行ってみりゃ分かるだろう」


 オオコボルトが何らかの理由で保護しているだけということもあり得る。


「バイジェルン、案内してくれ」


「任せるである!」


 ーーーーー


 田舎町サデルンに噂のコボルト商人はいるという。

 正確には町中の宿などではなく町のはずれに馬車を置いてそこで寝泊まりしているらしかった。


 避けられているとか宿を取らせてもらえなかったわけではなく普段からそうしているようだ。

 ドゥゼアたちとしてはその方が都合がいい。


 なぜなら町中にいられるとドゥゼアたちがコボルトの商人と接触することが難しくなるからである。

 コボルトの商人は魔人商人として認められているから町に出ても大丈夫であるが、ドゥゼアたちは魔人商人と違って町中に行けば攻撃される。


 町のはずれにいるのなら人間にバレずに接触することも簡単だろう。


「あそこである」


 町の横にある開けたところに馬車とテントが見える。

 それが魔人商人たちが寝泊まりしているものだった。


「周りに人の気配はない。行こう」


 人に見つかると騒ぎになってしまうので慎重に周りの様子をうかがって人がいないことを確認した。

 魔人商人の姿も見えないが一度訪ねてみる。


 離れた草陰から出てテントに向かう。


「どうしよう……どうしよう……」


 テントに近づいてみると中から声が聞こえてきた。

 人の言葉ではなく魔物の声だ。


「おい、聞こえるか?」


 テントの外からドゥゼアが声をかける。


「ヒャッ!? ま、魔物の声!?」


 中から驚いたようなリアクションが返ってきた。


「おっ?」


 テントが開いて急にドゥゼアの首に剣が突きつけられた。

 コボルトの魔人商人がいると思っていたら普通の人ほどの体格があるコボルトであった。


 そういえばオオコボルトもいると聞いていたなとドゥゼアは思った。

 変に動くと切られるかもしれない。


 ドゥゼアは剣を突きつけられたままあえて余裕たっぷりに構えてオオコボルトの目を見つめる。


「ま、魔物でした……?」


 剣を突きつけられても動じないゴブリンにオオコボルトがやや動揺したように瞳を揺らした。

 互いに黙したままでいるとオオコボルトの後ろからひょっこりとコボルトが顔を出した。


「ヒェッ! ゴブリン!?」


 コボルトはドゥゼアの顔を見るならオオコボルトの後ろに隠れてしまう。


「…………何の用だ」


 ようやくオオコボルトが口を開いた。


「客だよ」


 そう言ってドゥゼアは用意していたメダルを指で弾いた。

 オオコボルトがメダルをキャッチする。


 メダルを見て顔をしかめると後ろにいたコボルトに渡した。


「あれ、これってカエルさんの……」


 ドゥゼアが渡したのは以前に出会った魔人商人のゲコットの証であるメダルだった。

 魔人商人の正当な客な証であり、魔人商人と取引があることを証明してくれる。


 他の魔人商人たちに対しても取引してもいい相手だということを暗に示してくれているようなものなのである。


「お、お客さんですか?」


「そう言ってる」


 ドゥゼアは剣を指でついて引いてくれと行動で表す。


「ドッゴさん、大丈夫そうです」


 魔人商人を殺して奪ったことや冒険者の荷物から見つけたなどの可能性もあるが、ドゥゼアがちゃんとメダルを見せてきたということはメダルの意味を知っているということである。

 ならば正当にメダルを貰い受けたと考えた方が筋が通る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る