ゴブリンはジジイと戦います6

『魔物の、ゴブリンの味方をするのなら獣人も根絶やしにしてやろう……』


『くっ! なんだこの力!』


 パルファンはジジイの突きをバトルアックスの柄で防ごうとしたけれど思いの外力が強くて防ぎきれずに肩が浅く切り裂かれる。


「なんだか……やな感じ」


 ジジイの様子次第ではいつでも隙を狙えるようにドゥゼアたちは待機していた。

 ユリディカはジジイから嫌な力を感じている。


 言葉にして何が嫌なのか分からないけれども胸がざわつくようなすごく嫌な感じがあるのだ。


「押されてるな……」


 ここまでパルファンが優位に立ち回っていたのに一転してジジイが押し始めた。


「なんか黒い」


「あ、ほんとですね!」


 比喩ではなく実際ジジイが黒い魔力をまとっていた。

 それをみてドゥゼアも嫌な予感を覚えた。


「レビス、やるぞ」


「ん」


 このままではパルファンがやられてしまうかもしれない。

 ジジイと戦うと言った以上は最後まで責任を取るつもりもドゥゼアにはある。


 ドゥゼアはトウを手にジジイに向かって走り出す。

 レビスはドゥゼアの後ろから矢を放った。


『むっ!』


 ジジイは矢を切り落とし、迫るドゥゼアに刃を向ける。


「早い!」


 先ほど戦っていた時よりも剣の速度が上がっている。

 ドゥゼアはなんとか防御したけれど力も強くてそのまま押し切られて地面を転がる。


『ゴブリンは殺す!』


『ゴブリンしか見てねえのは嫉妬しちまうなぁ!』


 ドゥゼアに追撃しようとするジジイをパルファンが後ろから攻撃する。


『邪魔をするな!』


『ははっ、元は俺とお前の戦いだっただろ!』


 パルファンよりもジジイの方が強い。

 けれど両者の間に圧倒的といえるような差はない。


 パルファンを完全に無視してドゥゼアを狙うなんてこともできない。

 ドゥゼアもそれを分かっている。


 パルファンとドゥゼアでジジイを挟み込むような、簡単には対処できない位置取りを心がけて動く。


「オルケ!」


「はい!」


 ちょうどドゥゼアとパルファンが同時に飛び退いたタイミングでオルケが魔法を使う。


『このような小癪な手が通じるか!』


 ジジイが魔法を切り裂いて、素早く向かってくるドゥゼアの方に体を向ける。


「カジオ!」


『ようやく出番か!』


『なっ!』


 ドゥゼアはカジオを召喚した。

 急にジジイの横に現れたカジオは実体化した時にはもう拳を振りかぶっていた。


 カジオの拳をかわしきれずにジジイの頬が殴られる。

 ジジイはわずかによろけたが足を踏ん張るとカジオを切り付ける。


 だがカシオは殴ってすぐに下がっていて剣は届かない。

 次に切りかかってきたドゥゼアの剣は防がれてしまったけれど、ジジイはドゥゼアがニヤリと笑うのを見た。


『なに……』


 脇腹に鋭い痛みを感じた。

 見ると先ほど切り落とした矢が刺さっている。


『なぜ』


「面白い能力だよな」


 実はレビスが放った矢には細い金属の糸がくくりつけてあった。

 レビスには金属を操る能力がある。


 手から離れた遠隔では操作できないのであるがたとえ細い糸のようなものでも金属が繋がっていれば操ることができる。

 オルケやドゥゼア、カジオで注意を分散させて、狙いはレビスによる一撃だった。


 小さなダメージだろう。

 しかし小さなダメージがほんの少しの狂いを生む。


 少しずつジジイの動きが狂っていけばいいとドゥゼアは思っていた。


『くそっ!』


 ジジイは脇腹に刺さった矢を引き抜いて投げ捨てる。

 まだ無視できるほどの痛みであるがドゥゼアたちの参戦で状況が変わり始めた。

 

 パルファンがバトルアックスを振り下ろし、直後ドゥゼアもトウを突き出す。

 ジジイは恐ろしいほどの力と速さで両者の攻撃を防いだけれどカジオのボディーブローがジジイの体を横に吹き飛ばす。


 ドゥゼアの力は小さいかもしれないが、戦略的に動いてジジイに対する最大限の脅威を発揮している。

 ドゥゼアと意識で繋がっているカジオもドゥゼアの動きをある程度理解して立ち回りを考えている。


『う……』


 ドゥゼアたちの猛攻を防ぎ続けるジジイだが矢が刺さった脇腹が痛んだ。

 平時なら特に気にすることもなかったのに戦いの最中で動き回っていると頭を突くような痛みが時々襲ってくる。


 動くせいで傷口も塞がらない。

 対してユリディカのヒールも受けているパルファンの方はジジイの攻撃の傷もほとんど塞がっていた。


 カジオの攻撃も軽いものでなく体の芯に響くようなダメージがある。


(私が負ける……? ゴブリンに?)


 形勢は再びドゥゼアたちの方に傾いた。

 ジジイも素人ではない。


 周りを獣人に囲まれた状況でドゥゼアたちに押されていて勝ち目が薄いことは分かっている。

 だがジジイはゴブリンに負けるということを受け入れられなかった。


 パラファンに負ける方がまだ納得できた。

 ゴブリンに負けることがダメなのだ。


『なんだこいつ!』


『ゴブリンは……滅びるべきなのだ!』


 ジジイから黒い魔力が噴き出した。

 ドゥゼアを睨みつける目も黒く染まっていき、異様な雰囲気にパラファンすら気圧される。


 ジジイは体をねじるようにして力を溜め、大きく剣を振るった。


『ドゥゼア避けろ!』


 危機を察したカジオがドゥゼアを突き飛ばす。

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