ゴブリンは人の記憶を思い出します5
「勇者を選ぶのも簡単なことではない。本来人では倒せない魔王を倒せる因果から離れた存在であるからな」
「だがあのくそ勇者は失敗した! 選んだあんたらにも責任はあるだろう!」
ドゥゼアは大きな怒りを覚えた。
封印を破壊することはできない。
魔王を倒すための勇者もいない。
ならば結局エリザを助けることなどできないということである。
勇者を選んだのは神々である。
なのにそんな勇者は魔王に敗北して封印に頼るしかなかった。
希望を持たせるようなことを言って何もできないなど何のためにこんなところに呼ばれたのかと怒りに打ち震える。
「しかし方法がないわけではない」
「何か方法があるのか?」
「魔王を倒すのに人は因果に縛られる。そのために普通の人では魔王を倒せない。だが魔物は違う」
「魔物……だと?」
「そう、魔物は因果に縛られない。魔王を倒すこともできる」
「……だがどうしたらいいんだ?」
魔物が魔王を倒すことができるということは一応ドゥゼアも理解した。
しかしだからどうしたというのか。
どこからか魔物を連れてきて魔王でも倒させようというのか。
そんなこと不可能である。
魔物なら魔王を倒せるというが魔王を倒せる魔物もいなければそもそも魔物をコントロールして魔王と戦わせることも無視な話だ。
「何でもすると言ったな?」
「もちろんだ。エリザのためなら」
「魔王を倒すために、魔物にならないか?」
「なんだと?」
これが永遠に続くような地獄の始まりだった。
「魔物であるならば魔王を倒せる。しかし通常の魔物が魔王など倒せはしない。だからあなたが魔物になるのです。そして魔王を倒せばいい」
「神の加護を受けた勇者ですら魔王を倒せないのに……魔物になったぐらいで魔王が倒せるのか?」
「おそらく無理でしょう」
「無理? 何をやらせたいんだ?」
「けれど可能性は0ではない。それに勇者が魔王を倒せなかった罪滅ぼしはいたしましょう」
デセラが何を言いたいのか理解できなくてドゥゼアは頭から火が出そうだった。
「何度でもあなたは魔物としてやり直すことができます。死んでも死んでもまた魔物として生き返ることができます。強くなり、挑みなさい。そうしたらいつかは魔王を倒すことができるかもしれません」
「何度でも……?」
「そうです。1日だけ時間をあげましょう。親しい人に最後のお別れを。そしてまた祈祷室に戻りなさい」
「そうすれば……俺は魔物になるのか?」
「そうです。魔物になるということは過酷ですよ? それでもやりますか?」
「……やるさ」
ドゥゼアの目に迷いはなかった。
何でもやる。
魔物にもなるし魔王も倒してみせる。
気づいたら再び祈祷室にいたドゥゼアは部屋を出てレビスのところに行った。
これまでの謝罪と感謝を述べて、お前なら立派な騎士になれると伝えたい。
ユリディカへの伝言も残し、その後は自分の心配をしてくれた騎士や神官に挨拶をして回った。
殊勝な様子のドゥゼアにより心配する人もいたけれど一通り挨拶をしたドゥゼアは1日も時間を使うことなく祈祷室に戻った。
「俺は……魔物になる。そして魔王を倒し、エリザを救う」
その日以降ドゥゼアの姿を見たものはいなかった。
ある人はどこかに出ていったのだと言い、ある人はどこかで自ら命を絶ったのだと言う。
あるいは聖女を救うためにどこかで戦っているのだと言う人もいた。
ある意味でドゥゼアは戦い続けている。
しかし転生する先の魔物がゴブリンであったのはドゥゼア本人も知らないことであった。
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