ゴブリンはカジアを追いかけます3
同情はしない。
悪いのは騙されたガラカンである。
獣人にとって人は決して組むべき相手ではないのに獣人を裏切って人間と手を組もうとした結末なのだから。
『いいか、作戦はこうだ』
腕を組んだカジオが作戦を伝える。
単純に前から攻めていっても勝てるはずがない。
むしろカジアたちを危険に晒してしまう可能性が高い。
ここはマトモにやり合わないのが正解である。
『暴れろ。逃げろ。そして全てを整えて復讐するんだ』
陽動作戦。
ジャバーナと獅子族がそれぞれ違う方向から攻め込み派手に暴れる。
来ると思っているはずのない敵が来れば相手は動揺するはず。
その隙をついてドゥゼアたちがカジアとヒューリウを救い出すというのが今回の作戦だった。
「ちょっと疲れたね……」
「お疲れ様。これ飲んどけ」
ここまで休みも少なく走ってきた疲労がある。
ユリディカがみんなを軽く治療して調子を少しでも良くしてくれた。
魔力をだいぶ使ったのでオゴンからもらった魔力回復用のポーションを渡した。
「おいちくない……」
ドゥゼアはそんなに気にしなかったけれどユリディカは魔力ポーションの味が気に入らなかったみたいだ。
「悪いな。だが今は贅沢言ってられないから」
「ぬぅ……しょうがない」
作戦と言いながらも細かなことは何も決まっていない。
ジャバーナと獅子族が暴れて気を引くというだけの話で準備も必要なことはない。
『俺がまず行こう』
時間が経って冷静さを取り戻したけれどジャバーナの目には未だに怒りの炎が燃えている。
『分かった。獅子族が移動する時間をくれ。まあ少し待ったら……好きに暴れろ』
『……カジオ、俺は……』
『いい。俺たちは口で語る仲ではないだろう』
『……そうだな』
ーーーーー
獅子族が移動を始め、ドゥゼアたちも出来るだけカジアたちに近いところの草むらまで行って気配を消す。
程なくしてテントで休んでいた人間たちが騒がしくなり、大きな悲鳴などが夜の空に響き渡った。
ジャバーナが動き始めたのだ。
「見張りは立てていたが意識は低い」
一応他国への侵攻ということでちゃんと兵士を立てていたが、上手いこと蛇族を騙して奇襲のように侵攻を成功させ獣人を見下している人間たちは大いに油断していた。
観察しているだけでも分かった。
緊張感もなくアクビをしている奴もいればどうやって蛇族を倒したのか楽しそうに話している奴もいる。
見張りとしての役割を全力でこなしていない。
そんな中でジャバーナにいきなり襲われれば混乱もするだろう。
けれどもカジアたちを見張っている兵士は動かない。
まじめに仕事をしているのか、それとも戦いに行きたくないから見張りに徹しているのかは知らない。
まだ時ではないとジッと様子をうかがっていると騒ぎがさらに大きくなった。
獅子族も別方向から攻撃をし始めたようだった。
流石に見張りの兵士たちにも焦りが見え始め、偉そうな兵士が指示を飛ばして見張りの半分ほどが騒ぎの方に走っていった。
人数も減ったし、偉そうに指示だけ出してる奴は大体大したこともない。
好都合。今がチャンスだ。
「やるぞ!」
ドゥゼアたちは草むらから一気に飛び出した。
手前の見張りをドゥゼア、レビス、ユリディカで仕留めて、偉そうに指示を出していた奴はオルケの魔法で燃やした。
『な、なんだ!?』
『また奇襲だ! 助けを……』
「呼ばせるかよ」
ドゥゼアはトウで兵士の首を切り飛ばす。
切れ味が非常に良くて少ない力でも相手を倒せるのはとてもありがたい。
幸い強い兵士はおらず、奇襲の混乱に飲まれている間にドゥゼアたちは兵士たちの数を減らしていく。
オルケがその間にカジアとヒューリウのところに行って二人を縛り付けている縄をナイフで切る。
『オルケさん!』
『あなたは……』
一応ヒューリウもオルケの顔は見ているので怖がる様子はない。
リザードマンではなく獣人の一部だと思っている。
「ドゥゼア、助けた!」
「分かった! みんな、引くぞ!」
『やはりここに来ていたか』
ドゥゼアはこれまで強く鼓動していた心臓が掴まれたような思いがした。
低くてしわがれた声。
聞き覚えがあって、もう二度と聞きたくないと思っていた。
『おかしいと思った。勝ち目もないのに少数で攻めてくるのには理由があるとな』
「ジジイ……!」
振り返るとそこにいたのはゴブリンであるドゥゼアをさんざん追いかけ回してくれたオーデンというジジイだった。
『人質が狙いだったか。知恵を働かせたものだ』
リッチであるフォダエと戦っても死ななかったのかとドゥゼアは顔を歪めた。
同時にこの状況はマズイと思った。
まだドゥゼアがゴブリンであることはバレていないけれどバレていなくても敵であることに間違いはないのだ。
ジジイの実力はよく知っている。
ドゥゼアたちに勝ち目はほとんどない。
「今すぐ逃げるんだ!」
ドゥゼアが叫び、各々走り出す。
『逃すものか』
「くっ!」
「ドゥゼア!」
ジジイが一瞬で目の前に迫ってきてドゥゼアはトウを振り上げた。
なんとかジジイの剣を防ぐことには成功したけれど続く蹴りまでは防げなくて勢いよくぶっ飛んでいった。
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