ゴブリンはゴリラを追いかけます5
『ジャバーナ様!』
『なぜ戻ってきた!』
ここに他のゴリラの獣人が駆けつける予定はなかった。
ジャバーナは時間を稼いだらどこかで逃げ出すつもりであった。
『蛇族の連中が裏切りました!』
『なんだと!?』
マルヤが獅子族に指示を出して一時的に攻撃を止める。
状況の変化を感じ取ったのだ。
『どういうことだ!』
『あいつら……俺たちに毒を盛ったんです!』
やや小柄なゴリラの獣人は必死にジャバーナの前まで走ってくると倒れ込むように膝をついた。
『なにがあった……』
ジャバーナが苦しくなるような殺気を放つ。
『奴ら……労いだと言って酒を出してきて……その中に毒が』
『みんなは……無事なのか!』
『おそらく……もう……』
『アイツら……!』
ジャバーナの手がワナワナと震える。
『今すぐ…………』
『どこへ行くつもりだ?』
すぐにでも仲間の元に駆けつけねばならないと顔を上げたジャバーナの目に飛び込んできたのは自分たちを取り囲む獅子族だった。
細かな事情は知らないけれど、そう簡単にジャバーナを行かせるわけにはいかない。
ゴリラの獣人の態度だって演技の可能性がある。
族長であるジャバーナを助けようと一芝居打ったということだってあり得るのだ。
仮に聞こえてきた会話が本当だとしても獅子族には関係のないこと。
蛇族も敵にはなりそうだが、今はジャバーナも敵である。
脅威になりそうなジャバーナを先に倒して残るゴリラの獣人から話を聞いてもいい。
『退け!』
『それはならん』
『仲間の危機なのだ!』
『先にこちらの仲間を危機に晒したのはお前だ』
ゴリラの獣人たちは危険なのだろうがさらわれたヒューリウとカジアも危機にあることに変わりはない。
同族が危機にさらされているということは獅子族も同じなのである。
ジャバーナの事情だけ汲み取って行かせてやることなどできない。
マルヤと睨み合うジャバーナだが冷静さを完全に失ってはいなかった。
このまま獅子族と戦い続けても共倒れになるだけ。
歯軋りしながらも怒りを抑えようと必死になる。
『全てを話す……謝罪もするし、罪も認めて償う! だから行かせてほしい!』
ジャバーナが地面に這いつくばるように頭を下げた。
プライドも高いジャバーナがそんなことをするなんて予想外で獅子族が驚いている。
『だから蛇族など信頼できないのだ』
呆れたようにカジオがつぶやいた。
獣人の中では蛇族はやや特殊な部類の性質を持つ。
力が全てという思考が強い獣人は正面からぶつかり合うことを好む。
策略や知謀を用いないわけではないが得意とする者は決して多くはない。
けれども蛇族は頭がよかった。
悪い言い方をすればずる賢さがあるのだ。
もちろん獣人的な個の力も大切にはしているのだが戦いにおいて策略を用いることもあった。
そのために蛇族のことをあまりよく思っていない氏族もいる。
戦争なんかの時には状況を見て動ける蛇族は頼もしくて今も大きな領地を与えられているが、蛇族に力を持たせてもいいのかという意見は常にあった。
今回も蛇族が何かをしでかしたようでカジオは苦々しい気持ちになっていた。
『俺たちにはヒューリウとカジアを取り戻すという目的がある。お前が先頭に立って進め。その道中で話を聞かせろ』
罠の可能性もある。
しかし今は悠長に話を聞いている時間もない。
蛇族が何かの行動を起こしたのだとしたら二人に残された時間は少ないかもしれないとマルヤは焦っていた。
罠があるならあるでジャバーナを前にして進んでいけばある程度リスクは軽減されるだろうと踏んだ。
ジャバーナを先頭にしてドゥゼアたちは再びカジアを探して追跡を始めた。
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