ゴブリンはゴブリンと交渉します1

 ゴブリンに案内してもらってゴブリンの巣に向かう。

 歩きながらドゥゼアが思ったのはゴブリンが住むにはここは厳しそうだということだった。


 オークを探していたということはあるのだけどそもそもオーク以外の獲物を見つけられていないという話もあった。

 この辺りは完全にオークの生息域となっていてあまり小型の魔物を見かけないのである。


 つまりゴブリンが狩りをできそうな相手がいないのだ。

 オークを倒せないのなら飯に困ることになる。


 だからゴブリンはお腹を空かしていたのかもしれない。

 ただオークの生息域だから小型の魔物がいないということはイコールではない。


 むしろ動きの鈍いオークに対して小型の魔物はそれほど不利な立場でもないのだ。

 逃げるだけなら明らかに小型の魔物の方が有利であると言える。


 だから通常はオークが住んでいても小型の魔物がいてもおかしくはないはずなのにとは思う。


「アソコ」


 そこら中に洞窟や木の根の間のスペースなど棲むのにいい場所があるわけじゃない。

 時には少しばかり開けた場所を草で覆って隠れるように過ごしたりしていることもある。


 さらに時にはどこかで知恵をつけてきたのか木などを軽く組んで屋根のようにしているゴブリンまでいたりする。

 一度そうして屋根を作ることを覚えると後にもその行為は受け継がれる。


 このゴブリンの群れもそうした賢いゴブリンがかつてどこかにいたらしい。

 やや奥まっていて見つかりにくいところに草で作ったテントみたいなものがいくつか置いてある。


「ナニモノ!」


「テキダ!」


 見知らぬゴブリンも警戒の対象になるのだがもちろんワーウルフやリザードマンなんてゴブリンにとって全滅にも繋がる敵になる。

 ゴブリンたちがワラワラとテントから出てきて粗末な武器を構える。


 それをドゥゼアは冷静な目で見ている。

 群れの規模としては中ぐらい。


 決して大きくはないが群れとして成り立ちたてでもなさそう。

 だが武器は木の棍棒などを持っているゴブリンはおらず錆びてはいてもちゃんと人の武器を持っている。


 つまりそれなりに冒険者なども倒したりしている、やっている群れであるということだ。

 錆びついた武器が多いということは最近はあまりそうでもないのかもしれないが。


 軽く見ただけでもゴブリンの群れのことが少しは分かる。


「テ、テキジャナイ!」


 案内してくれたゴブリンが前に出て説明を試みてくれる。

 ここで変に動くとゴブリンたちにプレッシャーを与えてしまうので案内してくれたゴブリンが説明してくれている間ジッとしている。


「イマ、リーダーイナイ。ダカラハンダンデキナイ」


 他のゴブリンと話していた案内してくれたゴブリンが申し訳なさそうな顔をして振り返った。


「そうか、構わない。なら少し待たせてもらおうか」


 年齢がいったゴブリンもいるように見えるがそれはゴブリンたちの長ではないらしい。

 無理に話を進めるつもりはない。


 リーダーがいなくて話が出来ないというのならリーダーを待つことにする。

 ゴブリンたちの邪魔にならないように端の方に腰を下ろす。


 ジロジロと視線が突き刺さるが手を出してこないのならドゥゼアも何もするつもりはない。

 ドゥゼアは地面に座ってゴブリンの群れをさらに観察する。


 案内してくれたゴブリンは中でも若い個体。

 しかしそれより若い個体が見られない。


 ゴブリンたちは全体的に細い。


「やはり……狩りは厳しいのかもしれないな」


「どういうことですか?」


「周りにオークが多いこととゴブリンたちを見れば分かる」


 どうやら狩りをすることは厳しそうと思っていたのは当たっているようだ。

 ゴブリンではオークに勝てない。


 そしてゴブリンたちは細くて、幼い個体がいないということは食料が足りていないことの証明になる。

 痩せていて子供を産むことに回すエネルギーもない。


 あまり状況として良くない。


「だがまあ俺たちに出来ることはないがな」


 飯が足りないというのならどうにかして飯を確保するするしかない。

 もしくは飯を確保できない原因を取り除くぐらいだろう。


 その場しのぎ的に何か食べ物を与えることはできても原因を取り除くことまで付き合ってやるつもりはない。

 見ると案内してくれたゴブリンは残していたオーク肉をメスゴブリンに与えていた。


 そこそこ良いオスのようだ。

 暇なのでナイフなどの手入れをしていたら日も傾いてきた。


 このまま野営だなと思ったのでドゥゼアとオルケで枝を拾い集めて焚き火の準備をする。


「今日はこれを食べてみるか」


 暗くなるとまた違った魔物が動き出す可能性もあるし、暗いと余計なリスクも高まる。

 オークを探すことは諦めて夜のご飯は持ち運んでいるお肉を食べることにした。


 オルケによる水抜き乾燥肉をまず食べてみる。

 軽く水を抜いただけの半生の肉は少し傷み始めていた。


 ゴブリンの腹ならこれぐらい平気であるがあまり長いこと保存はできなさそうである。

 同じく中くらいの乾燥と目一杯乾燥させたお肉も食べてみる。


「うーん、ちょっと旨み少なめ?」


「そだな……不味くはないが少し物足りなさはあるな」


 魔法で無理矢理水気を抜いたお肉はちょっとパサパサとして旨みも抜けてしまっている。

 風味的にはまだまだ平気そうであるがもう少し美味しい方がいい。

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