ゴブリンは狩りをします4

 ついでだしオーク相手に実力試しもする。

 オークの動きはのろい。


 ユリディカ単体でも油断をしなければオークの喉を切り裂いて倒すことができた。

 やはり元々持っている身体能力の差は大きい。


 オルケの魔法も試してみる。

 しっかりとオルケが集中できる時間と余裕を与えてあげればオークを倒すぐらいの威力の魔法は放つことができた。


 レビスは直接パワーアップしたわけじゃないので置いといて、最後にドゥゼアも力を試す。

 なんとなくだけど心臓を中心として全身に力を行き渡らせるということが分かってきた。


 激しく心臓が胸打つとドゥゼアの能力は高まる。

 心臓が生み出した魔力が体の隅々にまで行き渡り、胸から力が湧いてくるのだ。


 何もしない時に比べて力も強くなるのでオークに対しても深く切りつけることができた。

 ちょっと首まで届かせることは厳しいのでドゥゼアのみで倒すことは面倒であるができないこともなさそうだった。


 ただ一度激しく心臓を鼓動させると落ち着くまでしばらくかかって心臓の音がうるさいのが弱点かもしれないと思った。

 使い方がこれでいいのかまだ分からないがダンジョンでボスアイアンテールウィーゼルを倒す時に声を聞いて以来カジオの声はしない。


「レビス、気を引くぞ!」


「ん!」


 近くにオークの集落でもあるのか探すと比較的すぐオークは見つけられる。

 2体ほどでいる確率と1体だけでいる確率は半々ぐらいで2体を諦めて1体だけのオークを探しても全く問題にならなかった。


 2体でも大丈夫だとは思うが目的は戦うことじゃなくオークをご飯にすることだ。

 1体でいることも多いのにわざわざ2体を相手取る必要はなかった。


 ドゥゼアとレビスが振り下ろされた棍棒をかわしてオークの足元に入る。

 そして足を切り付けるとオークは頭を下げて足元の状況を確認しようとする。


「ビョーン!」


 ドゥゼアを踏み潰そうと下を見たまま足を上げたオークの頭にユリディカが飛びつく。

 ユリディカの跳躍力ならオークの頭まで飛び上がることができるのだ。


「えーい!」


 そしてユリディカはオークの頭を掴むと一気に捻り上げる。

 ゴキンと鈍い音をさせながらオークの頭が一回転する。


「おっと」


 倒れてくるオークをドゥゼアがかわす。


「かぁー、私強い……」


 オークが倒れる前にシュッと飛び上がって着地したユリディカが悩ましげに頭を振った。

 強いのはよろしいのだがすぐに調子に乗るのは悪いところだ。


 ただまあ本当にそれなりに強いから微笑ましくそれを見ておく。

 ユリディカだってある程度は冗談のつもりなのだ。


「誰!」


 ユリディカが振り向いて歯を剥き出しにする。

 ドゥゼアの耳にもハッキリと草が不自然に揺れる音がしたのですぐに何かが近くに来たのだと分かった。


 オークを解体しようとしていたところだがみんなで音の方を警戒する。


「出てこい!」


 すぐさま襲いかかってこないということは戦う気もないはず。

 ドゥゼアは草が動いたところに声をかける。


 出てこないというのならそれでも構わない。

 時間はたっぷりあったのでオルケも魔法の準備はできている。


「出てこないならそこを吹き飛ばす!」


 だが味方とも限らない。

 このまま姿を現さずに時間を浪費されたって困る。


 今回オークの出血は少なく倒すことができたが血を嗅ぎつけて魔物が集まってくることだってある。


「……オルケ!」


「はーい!」


「マ……マッテ!」


 オルケが魔法を放つ直前に木の影からゴブリンが飛び出してきた。

 慌てたように手を上げて害意はないことをアピールする。


 ここまで来て慌てるならさっさと出て来ればよかったのにと思わざるを得ない。


「どうしますか?」


 ゴブリンならばこのまま吹き飛ばせる。

 オルケが確認のためにドゥゼアを見る。


「やめてやれ」


 どの道ゴブリンならば倒すのは簡単。

 わざわざ魔法をぶっ放すこともない。


「何の用だ?」


「ソノ……」


 ドゥゼアとレビスだけならともかくワーウルフのユリディカやリザードマンのオルケもいる。

 側にはオークの死体まである。


 状況的にゴブリンが近づいてくるようには見えない。

 言い淀むゴブリン。


 次の瞬間ゴブリンのお腹が盛大になった。


「なるほどな……」


 ドゥゼアの理解は早かった。

 このゴブリンはお腹が空いているのだ。


 きっと近くにいてオークを倒しているところをたまたま目撃したのだろう。

 その中にゴブリンがいて、オークはドゥゼアたちだけじゃ食べきれない。


 どうせこのまま空腹でいれば死んでしまう。

 そんなことからゴブリンはドゥゼアたちに近づいてきたのである。


 気持ちや行動は分からなくない。

 ドゥゼアも狩りが上手くいかなくて他の仲間を頼ったり、あるいは他の魔物が狩りをして食い荒らした残りをこっそりと腹に詰め込んだことがある。


 ドゥゼアたちがオークを食べ終えるのを待って残りをいただこうとしたのだ。

 ただドゥゼアたちには気がつかれてしまった。


「そこで待ってろ」


 キョルキョルとゴブリンのお腹が変な音を立てている。

 もう空腹は限界らしい。


 ドゥゼアは小さくため息をつくとオークの解体を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る