ゴブリンは勇気を出した水の精霊と会話する1

「んで、なんの用だ?」


 ユリディカがやろうとしたのだけどドゥゼアがいい!とレビスが言うので仕方なくドゥゼアが焼きあがったアイアンテールウィーゼルの肉をレビスに食べさせてあげる。

 食欲があるなら大丈夫そうだと思ったので水の精霊との会話を再開する。


 レビスの状態も教えてくれたし用事があるならちゃんと聞こうと思う。


「あれ」


「……ダンジョンか?」


 こくんとうなずく水の精霊。

 水の精霊が指差したのはダンジョンの入り口となっている避け目であった。


「あれがどうかしたか?」


「あれ邪魔」


「邪魔……まあそうだろうな」


 ダンジョンは人にとっては危険もありながら利益を生み出すものとなりうるが魔物にとってはただ危険で嫌な雰囲気のある場所にしかすぎない。

 水の精霊はダンジョンが出来る前からここにいた。


 ここの魔力を含んだ清らかな水の中に生まれてのんびりゆったりしていた。

 時々魔物が迷い込んできたりするけれど適当に追い返したりして生活していたのだがある時急に壁が崩れたらあのダンジョンが現れた。


 ダンジョンの雰囲気はあまり気分が良くない。

 けれど水の精霊はそんなに力も強くなく長時間水から離れられもしないのでダンジョンもどうにかできない。


 日々ダンジョンを睨みつけているだけであったのだけどそこにドゥゼアたちが現れた。

 ダンジョンの雰囲気も物ともせず焚き火などの準備もし始めた。


 最初は追い出そうかと思ったけどお水をうまいうまいと言って飲むしゴミを水に捨てたりしないので様子を見ていた。

 何をするんだろうと思っていたら魔物なのにダンジョンに入っていった。


 しかもちゃんと無事に帰ってきて、さらにまた何度もダンジョンに出入りしていた。

 変な魔物。


 でもドゥゼアたちを置いて他にお願いができそうな相手もいない。

 勇気を出して話しかけようと思いながらあと一歩を踏み出せずにいたのだけど急にぐったりとしたレビスを抱えてダンジョンから出てきた。


 何か失敗したのかと思ったけれど見ている感じケガをしていない。

 水の精霊はレビスの中の魔力の流れが見えていた。


 なぜがぐちゃぐちゃとして見える魔力だったのだけど命に別状はなさそうであった。

 話しかける勇気も出なくて再び様子を見ているとレビスの魔力が落ち着いてきた。


 ドゥゼアたちはレビスのことを見捨てることもしないで世話を焼いて心配していた。

 悪い魔物じゃないとここでようやく勇気を出してドゥゼアたちに話しかけることにしたのである。


 ただいきなりでは相手も驚いてしまうかもしれない。

 レビスのことに触れてからにしようと思った。


 そしてレビスがそのタイミングで目を覚ましてしまって引っ込むことも話しかけることもできなくて水の精霊はただ立ち尽くしていた。


「……それは済まないな」


「大丈夫」


 結果的に水の精霊を放置してしまうことになった。

 しかし自分があんまり積極的になれないのも悪いのだと水の精霊は怒るつもりもなかった。


「んーで、ダンジョンがどうしたんだ?」


 邪魔だからなんだ。

 言いたいことは分かる気はするけれど最後まで聞いてみないことには分からない。


「消して」


「俺たちが?」


「そう」


「まあ消せるかもしれないけど……」


 ダンジョンにも2種類ある。

 ボスを倒すと消えるダンジョンとボスを倒しても消えないダンジョンがある。


 実際のところどちらのダンジョンであるかはボスを倒してみないと分からない。

 だからボスを倒せばダンジョンを消すことができる可能性もないことはない。


 しかしダンジョンを消せると確約はもちろん出来ない。


「ダンジョンのボス倒して」


「うーん……」


 正直ダンジョンのボスに挑むつもりはなかった。

 それなりに攻略してみてある程度のところで切り上げるつもりだったのだ。


「ジー……」


 目をウルウルとさせて水の精霊がドゥゼアを見つめる。


「ボスを倒すことに俺たちの利点が無いからな……」


 ダンジョンのボスとなれば出てくる魔物よりも1つ格上の存在になる。

 アイアンテールウィーゼルの1つ格上となるとちょっと厳しそうな感じがある。


 水の精霊の事情を理解しないものでもないがわざわざドゥゼアたちがリスクを背負う理由はない。


「じゃあ……」


 水の精霊がぽちゃんと水と同化して消えた。

 そしてすぐにまた出てくる。


「これ、あげる」


 手には何かを持っていてドゥゼアにそれを差し出してきた。

 受け取ってそれを見てみると綺麗な宝石のように透き通った青くて丸い石であった。


「これは?」


「水の宝玉じゃないですか!」


 オルケがそれを見て驚いたように目を見開いた。


「水の宝玉?」


「知らないんですか?」


 割となんでも知っているように見えていたドゥゼアであるが水の宝玉がなんであるのか知らなかった。


「知らないものは知らない」


 別にドゥゼアだって知らないものはある。

 むしろこの世界知らないことだらけである。


「清らかな水と魔力あふれる場所に出来る不思議な宝玉です。

 魔道具のように持っているだけで所有者に良い効果をもたらしてくれるアイテムで冒険者が欲しがるような物です。


 多分売ったら凄い金額になりますよ!」


「ほーん、これがねぇ……」


 焚き火の火に透かしてみるとキラキラとして綺麗に見える。

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